「俺キミのこと愛していないよ。」
それは突然だった。
「愛していないって?どういうこと?じゃあ、何で今まで私と一緒にいたの?」
「楽だからに決まっているだろう。」
「えっ?それホント?本気で言っているの?」
「ウソつくかよこんなこと。」
「こんなことって・・・じゃあ、私と別れるのね?」
「そうだよ。バイバイ。」
「最低!そんな人だとは思わなかった。」
拓斗は蓮花に、そう言ってしまったことに後悔をしていました。
「もっといい言い方をできなかったかぁ。」
拓斗の実家は渓流下りで観光地ではありましたが、住所に大字小字が付くほど田舎にあります。
その実家に 帰らなければいけなくなったのは蓮花に別れを言う1週間前のことでした。
「拓斗、実家に戻って後を継いでくれない?」
「えっ?真斗はどうしたの?」
実家は弟の真斗が継ぐはずでした。
「それが一人娘と結婚して、向こうの婿の入ってしまったのよ。」
「知らなかった。」
「反対されると思って、全てが済んでからの報告だったのよ。しかも出来ちゃっていました。」
「えっ?赤ちゃんも?」
「そうなのよ。これじゃあ、反対も出来ないわ。」
父親の職業は伝統工芸士でした。
誰かが後を継がなければ、その伝統工芸は消えてしまいます。
町としても大損害となることは明らかでした。
しかし、弟のお相手の親御さんも町の権力者で、町としても反対できない状態でした。