その時、佐藤 波は海に呼ばれていた。
「帰って来なさい。もう、充分でしょ?」
「お姉さん、まだ、帰りたくない。」
「そんな事をしていても、あなたの思いは届かないのよ。」
「でも、諦めきれなくて・・・。」
「じゃあ、何で海を見ているの?恋しいからじゃないの?」
「違うのよ、ここが二人の思い出の地だから・・・。」
「アナタは次の満月の夜、帰らなければ二度と海に戻れなくなるわ。」
「分かっている。」
満月の夜に帰らなければ、人間のまま死を迎える。
人魚に戻れば、永遠の命を得ることが出来る。
「死んだ方がましだわ。」
波はそう考えていた。
あの人と彼女の結婚式も満月の夜。
「先代の人魚姫は泡になったと聞いたわ。それもいいかも・・・。」
波は海に帰ることを考えていませんでした。
奇跡が起きたのは満月の1日前でした。
それはいつものように波が、海べで歌を口ずさんだ時のことでした。
口ずさんだ時と言ってもしゃべることの出来ない波はハミングするだけでした。
偶然、その歌を聞いたあの人は
「この歌はあの時の?」
そうです。
あの人が助かった時の歌でした。
年の為に婚約者の彼女に、自分を助けた時に歌った歌を歌ってくれといいましたが、彼女は歌うことが出来ませんでした。
「嘘だったんだね?」
認めざるを得ませんでした。
「本当に助けてくれたのはあの子だったんだ。」
ようやく気付いたあの人は波に
「僕と結婚してくれ。」
そう言ったとたんに、波は言葉を取り戻しました。
「はい。あっ!話せた。」
「僕はようやく気がついたんだ。あの時、助けてくれたのはキミだったんだと・・・。」
「そうなんです。いままではなせなかった・・・。」
こうして2代目、人魚姫は幸せになりました。