ここは、あらゆる本が置いてある不思議図書館。本の中に入り、宿る想いを観る力を持つ少女「みる」は今日も本を手にする。
ー今日の本は、どんな本でしょうか?ー
・
…女の子は、ペットを飼っていた。お祭りの縁日の金魚すくいで、唯一取れた赤い金魚。
その金魚を「キミ」と名付けた女の子は、毎日キミに話しかけ、お世話をしていた。
「おはよう、キミ!今日はいい天気だね!」
「学校行ってくるね、キミ!」
「ただいま、キミ!もうすぐ友達が遊びに来るんだ!キミをいっぱい自慢するからね!」
「おやすみ、キミ…また明日ね…ふぁぁ…。」
女の子はリビングのフローリングに置いてある水槽に毎日呼びかけ、キミもそれをわかっているのかいないのか、ピチャピチャと跳ねている。女の子にはそれが楽しかった。
ーそれからしばらく経った頃。
キミが、死んでしまった。
お父さんがキミを庭の木の下に埋めて、お墓を作ってくれたが、女の子にはキミがもう会えないなんて、まだ実感が無かった。
「…ただいま。」
学校から帰り、がらんと広くなったように見えるリビング。
キミがいた水槽が片付けられた。
それでやっと、女の子はキミがもういないことを実感した。
「あれ?キミちゃんは?」
「もう、いないんだ。」
友達が遊びに来た時に問いかけられて、女の子はそれだけ言う。
口にするのも辛かった。でも、言わなきゃならない。
女の子は、毎晩キミを思って泣いていた。
…
「暗い顔して、どうしたんだい?」
女の子は、キミによく似た人に出会った。
「キミ…?」
「ほら、いつもみたいに話そう!」
そう言ってその人はピョンピョン跳ねて、女の子の手をつないで駆けていく。
「地面を走るって楽しいな!「きみ」もそうだったのかい?」
「こうして「きみ」と遊びたかったんだ!」
「こっちこっち!すごいでしょ!」
キミによく似た人は、女の子と綺麗な花畑を楽しく駆けた。
寝転がった、花のブレスレットを作った、花占いをした、かくれんぼ、おにごっこ、たくさん遊んだ。
「いっぱい遊んだね!」
「そうだね。」
女の子は、いつの間にか笑顔に戻っていた。
そして、美しい川辺にやってきた2人。そこでキミによく似た人は、女の子と距離を取り始める。
「どうしたの?」
「ここで…お別れなんだ。ずっと「きみ」が心配だったんだよ。でも…こうして一緒に遊べて、また笑顔を見られて…良かった。」
「やっぱり…やっぱりキミなの!?キミ!行かないで、キミ!!」
「…泣かないでよ。やっと笑顔に戻ったのに。」
「だって…だって…キミ…!!」
「笑ってよ、そうしたら…きっとまた別の形で会えるから。」
キミによく似た人は、女の子に花を一輪渡した。一緒に花のブレスレットを作った花だ。
「またね、大事な「きみ」。」
「キミ・・・!」
…
女の子が気が付くと、そこは自分の部屋のベッドの上。
「夢・・・?」
しかし右手に違和感を感じて開いてみると、小さな花の種が手の中にあった。
翌日、女の子は水槽があった場所に、花の種を植えた鉢植えをおいてもらう。
「キミ…いや、キミは金魚だもんね。キミじゃない「きみ」…どんな花になるのかな?」
そう言って、女の子は学校へと向かった。
・
誰もいないリビングの鉢植えの前に、ふわふわと少女…みるが降りてくる。
「…大丈夫、きっと「キミ」に似た花が咲くよ。」
みるが手から淡い光を鉢植えに与えると、土からピョンピョンと二葉の芽が出た。
・
…女の子が学校から帰ってリビングの鉢植えを見た時、きっと女の子の表情は笑顔になるだろう。
そしてまた、いっぱい話しかける。友達に自慢する。
そして…
あの夢で一緒に作った花のブレスレットと同じ、しかし少し変わった花が咲くだろう。
まるで金魚のような、変わった、でも女の子には大事な花が。
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(補足…この話は本来ブレスレットと同じ花が咲く結末でしたが、みるの力で金魚のような花弁の花になりました。)