#11 カンタ君逃亡劇

前回の話

#11  「約束」

金剛雨翔貴は、幹汰のことではなく幼馴染である設楽未梨愛についてパソコンで調べた。
翔貴はいままで幹汰以外の人間のデータも全てと言っていいほど知り尽くしているが、基本は幹汰にしか興味がないので幹汰以外の人間について長時間かけて調べる事はない。

クソッ…この女の事を知るために俺の貴重な時間が奪われていく…

舌打ちをしながら唇を噛む。
幹汰以外のことで自分の時間が過ぎるのに腹を立てる。
“何か幼馴染ではない証拠”がないか画面を何度も見尽くした。

設楽未梨愛…14歳、9月11日生まれ…血液型はB型…
幹汰が言うには、本当の幼馴染…
いまのところその証言を確証する証拠はない。
幹汰は他人を信じ込む傾向があるから、あの女の言うことを嘘でも信じている可能性はあるな…
今のうちに、あの女について調べられることは調べておこう…幹汰が危ない…

スクロールをすると、

この女…過去に東北に引っ越している?!

それから翔貴は必死になって未梨愛について調べた……。

カンちゃん……

KMKが未梨愛のために用意させた部屋に1人引き籠る未梨愛。
部屋の中は、電気をつけずに暗いままで時計の秒針だけがカチカチと鳴り響く。

静かな部屋…

自分しか居ない空間に懐かしさを憶える未梨愛は、いまの現状に似た過去を思い出す…。

ミリアン…生きるのをやめたらダメだよ?
キミには想いを告げる人がいるだろう?

そして、自分の脳内の中に入ってくる…“ある人からの言葉“

いや、アナタのこと思い出したくない……
やめて、私にあの時の事を…思い出させないで

思い出したくない過去の記憶が過り叫ぶ未梨愛…
遡ること3年前…
小学6年生だった未梨愛は父親の転勤で東北に引っ越していた。

ごめんな、まずはおばぁちゃんのお見舞いに行こうか?

うん!!

東北の大きな病院には設楽家の家族…
未梨愛からすると祖母が入院していた…
その面会に未梨愛は父と来ていた。

父さん、面会手続きしてくるから
先に6階に行っててくれ…
608号室だからなー!

わかってるって…

花束を抱えながらエレベーターを探し、乗り込む未梨愛。
すると看護師らの嫌な噂が聞こえてきて…
気になりつつもエレベーターの扉は閉まった。

まだ若いのにねぇ…カワイソウに

このこと、あの子には…もう?

いいえ、まだよ。本人は自覚してるかもしれないけどね…

そうよねー。
あーこれで、“孤高の皇子”とも会えなくなるのかぁ…
寂しいわ…

“孤高の皇子”?って、なにかしら…
でも、看護師が言ってはいけないことを聞いた気がする…
不謹慎な看護師もいるものね。
私が患者だったら、絶対看護してもらいたくないわ…

ピーーーーーーーーーーー

6階に着き、エレベーターから降り608号室を探しナースセンターに声をかけようとする。
すると子供たちのはしゃいでいる声が聞こえ、そちらに耳を傾ける。

この本、おもしろいね!おにぃちゃん!!

でも…この黄色いお花…見たことないー
なんていうお花?

この花はね、クロッカスって言うんだ。
丁度この時期に咲くんだよ。
手入れが難しいから育ててる人は見たことないなぁ…

キレイだねー!
このお花…図鑑じゃなくてちゃんと見てみたいなぁ…

その眼差し、立ち振る舞い…図鑑に置いている指先、顔だち…
私は子供たちと一緒にいる彼に一瞬にして見惚れてしまった……。
彼がきっと、看護師達が言っていた“孤高の皇子”だわ…その名の意味が分かる気がする。
みたものの目を奪っていくような存在…なんてキレイなの。

キレイ……

私は思わず声に出してしまっていたことに気づかなかったけれど、
彼らが一斉にこっちを見る。
視線で気づいて慌てて両手で口を閉じた。
その反動で花束を持っていたことを忘れて落としてしまう。

ガササササ

…あっ…

こっちを見て落とした花束を拾ったのは名も知らぬ美男子だった…。

はい!誰かのお見舞いかな?
良かったら案内するよ…

い、いいんですか…?

うん…君、何歳?
僕とそんなに変わらない気がするんだけど…

私は…来年、中学生になるの!

じゃ、同い年だね!!敬語使わなくていいよ!!

え!同い年?ってことは小学生なの?てっきり、年上かと…

よく言われる…大人っぽいとか、年上だとか…
そんなことないのにね

そう言って彼はクスッと笑って図鑑を閉じた。

こらー!!君たち、部屋に戻りなさい!

うわ、でた、鬼だー逃げろー!

廊下は走らない!!

賑やかな病院の廊下…
子供は看護師が元の場所へ連れ戻し私たちは二人っきりになった。
静かで質素なイメージしかなかった病院が、ちょっとだけ楽しく思えた。

自己紹介がまだだったね、僕は錺或真。

私は、設楽未梨愛。

未梨愛か…いい名前だね。
親しみを込めてミリアンって呼んでもいいかな?

いいわよ!
…じゃ、私はアルって呼ぶわね!
これからヨロシク!

これが私とアルの出会いだった。

その花、胡蝶蘭でしょ?
生で見たのは初めてなんだ…
すごくキレイだね…

花のことを言われてるのに、
なんか自分が言われてるみたいで恥ずかしくなってきた。
私は少し照れて花に顔を埋めた…。

おばぁちゃんがね…胡蝶蘭好きなの。
父さんがオーダーメイドで注文してくれたんだ…

へぇ…胡蝶蘭の花言葉って知ってる?
“幸せが飛んでくる“
きっと、おばぁちゃん退院できるよ

うん…私も、そう信じてるから…

608号室がどこか分かった私は、彼にお礼を言って頭を下げた。
すると、彼は手を振りながら笑顔でこう言ったのだ。

また会おうね

おばぁちゃんの面会のために来た大きな病院…
でも、引っ越してきた家から病院は割と近かった…
おばぁちゃんに会う口実を作り、
私はその日から毎日アルと病院で会うことにした。

おばぁちゃんの具合はどう?

順調よ。
早かったら、明後日には退院できるかもって
さっき看護師さんに言われたの。

それはよかったね…

それで、その…アルは?

僕は生まれつきの心臓病だから
手術をしたら治るかもしれないんだ…

じゃあ…手術…

でも、成功率はかなり低い。
手術をしてもイチかバチかって感じで…怖いんだ。
手術するのが…まだ手術する勇気が僕には足りていない。

この時のアルは、本当に怖いみたいで全身震えていた。
アルが発した言葉も少しオドオドしていた…
私がいつも見てきたアルは完璧主義って感じで、正に皇子で、誰にも隙は見せない。
そういうアルだけだったから、この時のアルになんて言葉をかけたらいいのか私には分からなかった。

ごめんね、ミリアンを困らせちゃった…
ボクらしくないな…

そんなことないよ…
手術は、誰だって怖いわよ!
それにアルの場合はイチかバチかなんでしょ?
そんなの簡単に決断できるわけないよ!!

ありがとう…
じゃあさ、僕が手術するかどうか決まったら
ミリアンに教えるから…
それまで…ちょっと待ってくれる?

うん!!
私、毎日通うから…
明日も明後日も!
ずっと待ってるから!

じゃあ、約束…小指だして?

指切りをしたのは、いつぶりだったろうか………
あの時、花壇でカンちゃんと一緒にした以来かな…
あの時はなんで…カンちゃんと指切りをしたんだっけ???
私は、憶えておかなきゃいけないことを忘れてしまっていたことに気づく
……こんなになるまで私は、アルのことしか目に入らなかったんだ…
私、アルに恋してるのかも……

小6の春、初めての恋を私は経験した………
それはまるで楽しくて胸がドキッとして…
でも、なんだか切なくて。
恋をしたのが初めてだったから恋ってこんな感じなのかな?くらいに思えてた。
でも、同時にアルを失いたくないとも思っていて…
その答えを聞く日を私はただひたすら待つだけだ…

それがいまの私にできることだから………

第12話へ続く

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水樹

最初に絵を描き始めたのは小学生の頃でした。 それから、自分の世界観を文字におこしたり、絵にするのが趣味になっています!!

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