木々のざわめきや鳥の鳴き声で目が覚める、何か夢を見ていたような気もするが、もう夜の気配とともにそれも消え去っていた。大きく伸びをして、すぐそばで寝ているイブを見て、小さく驚きの声を上げた。私の声を聴いて、イブは瞼をこすりながら目を覚ました。
「おはよう」
あぁ、おはよう、心臓の鼓動がやけにうるさい、私は彼女に気取られないように、昨日はよく眠れた? と作り笑いを浮かべた。
「まぁまぁかな、アダムは?」
まぁまぁだな、そう返すとイブと私は見つめ合い、数秒後笑い出した。
「じゃあ、今日は何をしようか」
私は彼女が昨夜語っていた夢について尋ねる、イブは腕を組んで考え込んだ後、なんでも! とまぶしいくらいの笑顔を向けた。
「なんでも、か、それはそれで難しいな」
んー、じゃあ、イブの予想外の提案に私は目を見開いた。どう? いたずらっ子っぽく笑う彼女に、あまり気乗りはしないが、仕方ない、と渋々頷いた。
イブの提案で、私は彼女に狩りを教えるため、昨日の小高い丘に来ていた。近場に転がっていた木の板を、近くの木に立てかけ、彼女に弓矢を手渡した。
「あの的を狙えばいいの?」
すぐ側に置かれた的を見て、どこかイブは不服そうだ。まぁ初心者だからな、私がニヤリと口角を吊り上げると、これくらいなんてことないから! とイブは弓に矢を番え的を狙い矢を放った。矢は的にあたることなく、明後日の方向に飛んでいく。
「難しい、ね」
照れたように笑うイブに、まぁ初心者だから、と苦笑した。この調子だと、矢が何本あっても足りなさそうだ、近くにいるから、と声をかけてから枝を拾いに行く。矢が空を切る音を聞きながら、矢と矢じりに使えそうなものを拾っていく。少しずつ日が傾いてきた、躍起になって矢を放っているイブに、そろそろ帰ろうか、と声をかけた。
「まだ、あと少しで当たる気がする!」
確かに木の板付近の地面に、数本の矢が突き刺さっている。じゃあ、あと少しだけ、やれやれと首を振るとイブは嬉しそうに笑った。矢筒が空になるとき、乾いた音と共に木の板に矢が当たった。やった! 当たった! ピョンピョンとその場で飛び跳ねるイブに、私は無言で矢筒の中を見せた。
「……空になっちゃったね」
さ、矢を拾いに行こうか、作り笑いを浮かべる私を見て、イブは小さな悲鳴を上げた。