おはよう! イブのとびっきり元気な声で目覚めた。彼女の手を見れば弓矢が握られており、それが今日の予定を決めたようなものだった。大きく伸びをしてから、ゆっくりと起き上がる。また何か夢を見ていた気がするが、夢というものは起きた時には忘れている、忘れるような事なんだから大した事でもないだろう、そう結論付けると身支度を始めた。
一昨日昨日に引き続き、小高い丘まで来ると、木の板をもう少し遠くの位置に置いた。イブが真剣な顔で矢を放つのを、すぐそばに座り込んで眺める。一本、二本、三本目で矢が的に命中した。おぉ、声を上げパチパチと拍手すると、イブは嬉しそうに笑っている。
「じゃあ、もう少し難易度を上げようか」
また少し離した所に的を置き、今度は半分ほど隠れるように枝をかぶせていく。さぁ、やってみよう、ニコニコとイブに笑いかけると、少しムッとした後ニヤリと笑った。十本目で的に当てたイブを見て、あまりの上達の速さに舌を巻いた。
「前世は弓の名手かな?」
かもね、ニヤリと笑うイブの頭に、軽く拳を落とすと涙目で私を見上げてくる。そろそろ、動く的に挑戦しよう、ブツブツと何か呟くイブを放って、木の枝をどけ近くに垂れ下がっていた蔓に的を巻き付ける。ゆらゆらと揺らし、私は近くの木陰に隠れた。
「いいぞ!」
矢が空を切る音がして、直ぐそばの枝に矢が刺さった。想像以上に身の危険を覚え、木陰から出していた顔を引っ込める。四方八方から飛んでくる矢を見て、大分てこずっているのかと勘違いしていた。木々の隙間から、ぎらりと何かが光る、はっとして近くの矢を手に取ると、慌てて辺りに視線を這わせた。気付いた時には、肉食獣の群れに取り囲まれていた。
「アダム、逃げて!」
肉食獣の一匹に矢が突き刺さった、次から次へと飛んでくる矢を避けながら、なんとかイブの元へと帰ってきた。前の比じゃない、怒り狂った十を超える獣が、私たちに敵意を向けている。リュックを背負いなおすと、イブの手を取って駆け出した。
イブが石に足を取られ派手に転んだ、慌てて駆け寄ろうとした私の前に、一頭の獣が襲い掛かってくる。得物もない状態で、無傷で済むとは思えない、だが、このままでいれば私はまだしも、イブに危険が迫る、考えている余裕はない。
襲い掛かってきた獣の頭を掴むと地面に叩き付ける、動かなくなった獣を拾い上げるとイブに食らいかかる獣へと投げつけた。悲痛な鳴き声を上げて、二頭の獣が地面へと落ちた。じりじりと間合いを詰める獣たちを見て、リュックからランタン用のオイルを取り出すと、ぐるりと自分の周りにオイルを撒いていく。イブを抱きかかえ、マッチに火をつけると、撒いたばかりのオイルに投げ入れた。赤々と燃える火に恐れをなしたのか、一頭また一頭と何度もこちらを振り返っては逃げ去っていく。火が燃え尽きた後、私たちはただ呆然と、辺りを見回していた。