不思議図書館・追「0:魔術師と女の子」

ーもう、何年前だっただろう。

年数は忘れても、あの日の情景はハッキリと思い出せる。

「また上空なのーーっ!!?」

突然…空から女の子が降ってきた。

「トルネイド!」

私は魔法で小さな竜巻を作り、女の子を受け止めてあげる。

大きな白いリボンを付けた、黒髪の女の子。

「うぅ…5回連続上空とか…もう勘弁して…。」

見ただけで、すぐにわかった。尋常では無い魔力量、性質、師匠と似た感覚。

この女の子は、師匠の子孫。そして、師匠の言い伝えにあった…双子の女神の生まれ変わりだ。

「で…今度はどんな世界〜?もうヤダよ、変な世界ばっかりだし、扱い悪いし、ちゃんとした魔法使いはいないし!!」

「…つまり、お前は世界を巡って来たのか。なるほどな。」

「っぎゃあああ!!いきなり現地の…こ、今度は何!?魔物?妖怪?悪魔?…と思わせて鬼パターンだ!」

「どんな世界を巡って来たんだ…。私は魔術師。魔導師エイント・セブンス・ルシフェリオの弟子の1人「カルム」だ。」

「!!!」

私の言葉に、女の子は目を丸く見開いてこちらを見る。そして肩から下げていた黒猫の顔の形をしたバッグから、小さなメモ帳のようなものを取り出し、ジーっと見た。

「…エイント…セブンス…ルシフェリオ…合ってる!!その人の弟子の魔法使いさん!?」

「ああ、そうだ。お前は…」

「私っ!その人がご先祖様で!魔法を使える人を探しててっ…お願いします!魔法を教えてください!!」

女の子はこれでもかと頭を下げてきたので、私は顔を上げるようにとすぐに言う。

「だいたい事情は予想がつく。魔法の無い世界で育って困っていたんだろう?」

「そうなんです…。」

「わかった、とりあえずウチに来なさい。えっと…名前は…」

「◆◆◆◆です。」

「あー…まず、真名を名乗るのはやめておいた方がいい。」

「真名??」

「生まれた世界での名前だよ。名前を使って人を操る魔術もあるし、無理矢理に契約された時に解除出来なくなる。」

「そ、そんな…どうしたらいいの?」

「おそらくエイント様の名前から名字が来ているのだから、名字はセブンス。…あとは…み…み…」

「ミィ。」

「ミィ?」

「姉さまと兄さまは、そう呼んでくれてたよ。」

「なるほど、ミィか…ミィ・セブンス…少し足りないな。…ルナ…Lunatic…Alice…ルティナリスはどうだ?」

「長くない?」

「ミィ・ルティナリス・セブンス。ミィでもルティナでも使える。それを略して…「みる」!」

「みる??」

「そう、今日からキミのニックネームは「みる」だよ。よろしく、みる。」

「…よろしく、カルム。」

何だか釈然としなさそうな反応の女の子は、それでも頷き、ミィ・ルティナリス・セブンス…「みる」として生きていく事に決まった。

「カルム、魔法ってどう使うの?私、姉さまと兄さまと遊ぶ時と、世界を移動する時しか使ってないの。」

「…普通、世界を移動するのは魔術か能力の筈なんだがな…。どう使っていたんだ?」

「えーっと…うーんと……火、火…」

みるが振り絞るように頭の中で火を想像すると、やがて手から小さな火がポン!と出てすぐ消える。

「…こんな感じ。もっと危ない時に、大きいのを思い浮かべると、もっと大きく出た。」

「なるほどな…。」

通常、魔法も魔術もまずは自分の魔力を認識し、想像し、それを用いて魔法や魔術を使う。しかし、この時のみるは、ただの「想像」だけで魔法を出した。

ほぼ無詠唱、無魔法陣、無呪文で。

恐らく、みるの魔法は双子の女神の、生を司る力と死を司る力が合わさり、そこに双子の「願望」が加わって、魔力を認識していなくとも強く願うと魔法として出るようになっているのだろう。

「あのね、兄さまが言っていたの。ちゃんと魔法を使える人に、しっかり魔法を習って覚えなさいって。」

その兄の言うことは正しい。たかだか10歳そこらの人間の娘に、この魔力は負担が大き過ぎる。

「別な世界で魔法が暴走して…怖がられて…」

みるは、前に行った世界での出来事を思い出し、次第に涙を零し始めた。

「誰も…わかって…くれなくてっ…みんな…母さまと父さまと…同じっ…」

「エイント様の一族なのに、兄と姉以外はわかってくれなかったのか…。」

「だってっ…わたしのっ…世界はっ…魔法が無い…でもっ…魔法を使うのは…楽しくてっ…」

嗚咽しながら答える、10歳の小さな女の子。

私は、みるを優しく抱きしめ背中を撫でながら言う。

「大丈夫、私がしっかり面倒を見る。姉や兄と連絡が取れるかも試してみよう。だから…いや…寂しかったな、◆◆。」

「…っ…うああああん!!!」

師匠…エイント様は、もう二度とあんな悲しみを生まないように、語り歩いていた。師匠の弟子として、ここまで生きて辿り着いた、みるの努力を無駄にしない為、私はみるに魔法と女神の力を教えると改めて決心する。

方針が決まってからは早かった。

みるは私の家に住み込みで必死に魔法の勉強をし、私はみるが持っていた黒猫のバッグから、携帯やメモ帳を借りて魔術的な解析をし、みるの姉兄にコンタクトを取る。

何とか姉兄と連絡が出来、主に姉の方から、みるの過ごして来た時の事や、これからの事を話した。

女の子のみるには、男の私ではわからない事がどうしてもある。その点は姉が色々と役に立つアドバイスをしてくれた。

「…で、貴方は何度人の家で同じ話をするんですか?愚兄。」

「お前が話を振ったんだろう、愚弟よ。」

「私は「みるも立派になりましたね」と言っただけですが。そこから貴方の、昔話という名目の「自分の可愛いみる自慢」が始まったのです。」

「それがどうした?」

「みるを取られた気持ちはわかりましたから、何度も同じ話をしないでください。」

「私の可愛いカワイイみるが取られたなどと言うな!」

「面倒な人ですね…。それで本題は何ですか。」

「ぐすん…みる…。…ああ、えーと…不思議図書館世界の管理権限だが。」

「変わらずに、ユリドールになっていますが?…まさか世界の権利まで悪魔司書に譲る気ですか?」

「いや、ただの確認だ。大きな事件だったからとレフィールが……くっ……レフィールぅぅ!!私のみるを…みるを…!!」

「いつまでもそんなだから、みるが旅に出たり1人暮らしをしているんですよ。…とりあえず変更は無いとレフィールに伝えてください。」

「わかった…また来るからな「レイン」。」

「愚痴なら居酒屋でもどこでも行ってください、愚兄…カルム。」

こうして、いつもの魔導師の兄弟弟子によるお茶会は終わる。毎回毎回話題は変わらない。

師匠の子孫で女神の生まれ変わりと、弟が管理していた不思議図書館がある世界の管理について。

魔術師なんて、だいたいが変わり者ばかりだ。

終わる。or 関連本の追求。

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メルン

小説を書くのが好きな、アニメ・ゲーム・読書が趣味の人です! 目についたものや不思議なことを小説にしたり、絵にも挑戦したいです。 ほのぼの、ほんわか、ちょっと謎な話もあるかも…?

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