零感霊能探偵は妖狐と共に 4

 体調が優れないという梓を車において、誠と玉藻の二人は薄暗いトンネルを見つめる。等間隔に設置された明かりは、橙色で時折ちかちかと光っている。二人はいかにもな雰囲気に思わず息をのむと、車で待っている梓に電話を掛けた。

「梓ちゃん、具合、どう?」

 誠が声をかけると、梓の力ない声が返ってきた。誠と違い霊感が非常に強い梓にとって、心霊スポットは最も来たくない場所だ。半ば無理やり連れてきたことに、誠が反省していると、そんな様子の誠の頭を玉藻が叩いた。

「いった! なにすんの?」

 いえ、気後れしているんじゃないかと思いまして、玉藻がにやりと笑うと誠は両頬を叩いて気合を入れなおす。どうせ、自分には何も起こらない、それに力強い相棒がいる、誠と玉藻は互いに頷きあった後トンネルの中へと足を踏み入れた。

 トンネルはどこかジメジメとしていて、謎の圧迫感が二人を襲う。玉藻は辺りに漂う悪い気と霊の気配を誠に伝えると、その中心であるトンネルの中間地点を指した。誠がそれにつられ視線を移すが、明滅する明かりと脇に置かれた花束しか見えない。

「花があるってことは、ここではよく事故が起こるんだね」

 中間地点まで歩いてきた二人は、花を見つめた後ぐるりと辺りを見回した。ここまで来て違和感を覚えていた誠がハっとした顔で、落書きが見当たらないことを玉藻に伝える。怖いもの知らずの若者が多く来るというわりに、トンネルは驚くほどきれいだった、それが意味することはここがホンモノだ、ということだろう。玉藻は目の前にある、球体上の霊魂の塊を見て、深く大きいため息をついた。

「これは結構厄介そうですよ」

 また花へと視線を落としていた誠が玉藻を見上げ、そうなの? と緊張感のない返事をする。また手をあげそうになるのをグッとこらえ、玉藻は目の前の塊を見つめた。ブツブツと何かを呟きながら、塊に近づこうとすると、球体上だったそれはばっくりと口を開け、一直線に玉藻へと突っ込んでくる。間一髪でそれをよけると、狐火を出現させ、次々に弾丸のように塊へと放っていく。じゅうじゅうと煙を上げ焼ける塊が、何十という手を玉藻へと伸ばす、ひらりひらりと避ける玉藻を見て、誠は拍手を送る。

「何が起こってるかまるでわかんないけど、ガンバ!」

 ぐっと親指を立てる誠を見て、玉藻はこれ見よがしに舌打ちする。するとその一瞬の隙の間に、一つの手が玉藻の足を掴んだ。軽々と手が玉藻を掴み上げると、バンバンと地面へとたたきつけ始める。バラバラと四肢が転がり、頭が誠の方へと転がってきた。

「玉藻? いる?」

 ひび割れた人形の頭を抱いたまま、ふらふらと誠は歩き回る。特別な人形を依り代にしていた玉藻は、お気に入りを壊されて激昂していた。狐本来の姿のまま、何十何百という狐火を辺りに漂わせると、マシンガンのごとく塊を撃ち砕いていく。もくもくと煙をあげながら、霊魂の塊が悲鳴を上げ、トンネルの外へと逃げようとする。

「逃がしませんよ?」

 何十という狐火を一つの大きな塊へ変えると、逃げ出した塊へと勢いよく放つ。つんざくような悲鳴がトンネル中にとどろくと、霊魂の欠片があたりへと飛び散りそのまま消えていった。聞きなれた着信音に、誠がスマホに目をやった。

「あぁ、梓ちゃん? うん、あ、体調良くなった? じゃ、終わったんだね」

 玉藻、帰るよ、誠はどこかにいるだろう玉藻に声をかけると、バラバラになった人形の四肢や胴体をかき集めトンネルから出ていく。ふっと何かが直ぐ隣を通った気がして、トンネルの中を振り返った後、誠は直ぐに前に向き直り歩き出した。

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猫人

はじめまして、猫人と申します。映画鑑賞、小説を書く事、絵を描く事、ゲームするのが好きです。見たり読んだりするのはオカルト関連ですが、執筆するのはSFと言うなんとも不思議な事がよく起こっています。ダークだったり、毒のある作品が大好きです。

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