誠は誰かの話し声で目を覚ました。寝ぼけ眼を擦りながら辺りを見回すと、ニコニコと笑いながら玉藻がこちらを見ている。昨夜のことを思い出し、開きかけた口を閉じると、小さく頭を下げた後身支度を整えていく。
「どうかしました?」
不思議そうな声を出す玉藻に、いや、なんでもないよ、と誠はそっけなく返した。一通り身支度を整え終えると、敷いていた布団をたたみ、部屋から出ていく。ただ黙ったまま前を行く誠に、玉藻もまた昨夜のことを思い出していた。暫くそうやって黙り込んだまま歩いていると、薫が二人を見つけてニッコリと笑顔を向けてくる。
「あら、二人とも早いのね、朝ごはんもうちょっと待ってね」
二人は顔を見合わせると、首を横に振った。あら、残念、あからさまにしょんぼりとする薫に、玉藻が誠の肘を小突く。ギロリと誠が玉藻を見ると、玉藻も誠をにらみ返した。
「あらあら、ケンカしないの」
昔を思い出すわね、と苦笑しながら呟く薫を見て、二人は不思議そうな顔をする。ほら、覚えてない? 子供の頃いつも喧嘩してたじゃない、薫は相変わらずニコニコと笑いながらそういうと、ちょっと待ってて、とどこかへと歩いて行ってしまう。
「どうしますか?」
玉藻はどこか困ったように笑うと、誠はまた考え込んだ後、仕方ないね、いこうか、と玉藻の手を取った。二人が薫の背中を追うと、薫は二人がついてきたのに気づき、待っててよかったのに、とケラケラと笑っている。薫は部屋の一つに入ると、棚から一冊のアルバムを取り出した。薫は写真の一つ一つを指さしながら、二人にその写真にまつわる思い出を語りだす。二人はあぁでもない、こうでもない、と話しながら写真を眺めている。
「母さん、飯は?」
伸がそんな薫に向かって声をかける。薫はハッとした顔をして慌ただしく走り去ると、二人はぽかんと口を開けた後、伸を見ていそいそとその場を離れようとした。
「まぁ、まて。どうした、何をそんなに急いでる」
伸が二人を呼び止めると、二人は顔を見合わせた後、恐る恐る伸の様子を見ている。伸はそんな二人を見て苦笑すると、床に置かれていたアルバムへと目をやった。あぁ、懐かしいな、目を細める伸を見て二人はまた顔を見合わせた。
「どうせなら、玉藻の人形も、子供のように作っておくべきだった」
伸はアルバムをめくりながら、どこか気落ちした声を出す。久々に会った父親の意外な面ばかり見て、誠は若干戸惑っていたが、十年という月日の長さを感じ一人納得する。記憶の中の伸とあまりに違い、玉藻もまた何とも言えない顔で、伸を見ていた。