誠が事務所に戻ってくると、ドアの前で梓が立っていた。声をかける誠に、梓はどこか不機嫌そうに、二人を見た後ドアを指さす。二人は顔を見合わせると、くすくすと笑いながら事務所の中へと入っていく。ムッとしながら梓が二人の背を追った。
「年中無休だと思ってたのに」
ふくれっ面のまま梓が誠を見ると、ここはお店じゃないからね? と誠はにやりと笑っている。玉藻は事務所の掃除をしながら、そんな二人を眺めていた。どこに行ってたの? と聞いてくる梓に、誠は、ないしょ、と返しまたにやりと笑う。
「私だけのけものなんて酷くない?! なに、二人はそういう関係なの?」
誠と玉藻は顔を見合わせると、数秒後吹き出した。どういう関係だよ、という誠の声と、どういう関係ですか、という玉藻の声が重なる。そんな風に和気あいあいと話していると、遠慮がちに誰かがドアをノックした。誠がのんびりと声をかけると、おずおずと一人の女が事務所に入ってくる。誠は女を椅子に座るよう促すと、女は小さく頭を下げてから座った。
「今日はどんなご用ですか?」
誠が女に聞くと、女はどんよりとした声で話し始める。
女は最近この町に引っ越してきたばかりで、とある家賃の安い部屋に住んでいる。あまりの安さに、不動産屋に問い合わせたり、ネットで検索をしたりと、自分なりに調べたが特にこれといった問題はなさそうだった。ホッとしたのもつかの間、部屋の中で怪奇現象が多発し、眠れない夜を過ごしていた。夜に頻発していた怪奇現象が、最近は昼間にまで起きるようになり、部屋にいるのが怖くて仕方ない、とのことだ。
「そんなことがあるんですか、失礼ですが何かトラブルなどは?」
誠の言葉に女は頭を振った、女は縋るように誠を見つめると、何度も何度も頭を下げる。落ち着いてください、きっと解決してみせますから、と笑いかけると玉藻から受け取ったお茶を女に差し出した。女は差し出されたお茶を受け取ると、ぼんやりとカップを眺めている。酷くやつれたように見える女に、三人は心配そうな顔をした。
住所の書かれたメモを差し出すと、女は何度も頭を下げてやがて去っていく。誠は二人に向き直ると、どうだった? とこれまでにない真剣な顔で問いかけた。二人は顔を見合わせると、腕を組んでうなり始める。どうやら特に変わった様子はないらしい。
「変だよね、なんの曰くもない場所で、なんのトラブルもない人が、怪奇現象に見舞われるって」
誠の一言に、そうですね、とだけ玉藻が返した。普通、霊は、人、物、場所、につく場合が多い。今回の依頼は、本人にも、また、場所にも変わった様子はなかった。となると、女に同居人がいて、その同居人についている、いや女は確か一人暮らしだったはずだ。一通り考えてはみたが、三人の頭にはまるで答えが浮かばない。
「とりあえず、現地に行って確かめようか」
誠の提案に二人はうなずいた。三人はどこか釈然としないまま、ふと女の住所に書かれたメモを見つめた。