せっかく来たんだから、と梓に遊園地の中を引きずり回される。はじめ珍しく真面目な顔をして考え込んでいた誠だったが、絶叫マシーンを立て続けに乗らされた辺りで、色々な考えが吹き飛んでしまった。梓なりの気遣いだったんだろう、とベンチに座り項垂れていると、直ぐそばに座っていた玉藻がニヤニヤと笑っている。
「恋のライバルが幽霊だったなんて、面白いですね。実に貴方らしい」
誠はげっそりとした顔で玉藻を見た後、はぁとこれみよがしにため息をついた。だからそんなんじゃないって、梓ちゃんはどっちかっていうと、そう妹、妹みたいな、ふと二人の前に影が落ち顔を上げると、ソフトクリームを両手に梓が立っていた。
「そんな風に思ってたんだ、ちょっとショックかも」
二人にソフトクリームを手渡し、少し離れたところに座る梓に、受け取ったソフトクリームを食べながら、二人は互いに顔を見合わせる。急いで食べ終えた誠が弁解しようと梓に近づくと、梓は顔を覆ってしくしくと声を上げていた。
「あ、いや、妹って言うのは、その、言葉のあやというか、あの」
慌てふためく誠を見て、梓の肩が小さく揺れだした。うっそー、前のお返し、梓はぱっと両手を開くと、ニコニコと子供のような笑顔を見せる。誠はがっくりと肩を落とし、梓から少し離れた場所に腰を下ろし、深く大きいため息をついた。ぽんと肩を叩かれ、誠が顔を上げると、玉藻がこれ以上ないくらいの笑顔で、グッと親指を立てた。
最後に観覧車に乗ろう、という梓の提案で、三人は観覧車のゴンドラに乗り込んだ。ゆっくりと地上を離れていくゴンドラに乗って、傾きだした夕陽をぼんやりと眺める。梓と玉藻はわいわいと、眼下に広がる景色を指さしながら、ああだこうだと何か言っている。ふと、誠は、遊園地に家族三人で来た時のことを思い出した。いつも厳しい伸が珍しく楽しそうにしていて、それを見て誠もうれしく思っていた、気がする。
「あの女の人、もしかして、彼のことが好きだったのかなぁ」
誠が誰に言うでもなく呟くと、あれだけ賑やかだったゴンドラの中がしんと静まり返る。ハッと誠が我に返ると、二人はじっと誠を見つめていた。ただ黙って見つめあったまま、ゴンドラが頂上にやってくると、ふと窓の外を見下ろした。
「あ、あれ」
誠が遊園地内の、お化け屋敷の入り口を指さすと、二人はそれにつられるようにして、そこを見つめた。見れば、こちらへと誰かが手を振っている、三人は顔を見合わせた後、手を振り返すと誰かはお化け屋敷の中へと消えていった。
「悪戯好き、か……、あの女の人の言う通りかもしれないね」
ふと、誠が疑問を口にする。あの男は、どうやって自分の事務所を知ったのか、そして、どうやって遊園地から離れた事務所まで来たのか、二人はちらっと誠の背後を見て、思わず苦笑していた。