零感霊能探偵は妖狐と共に 終

 何かがはじけるような音がして、黒い空間が靄のように消えていく。三人は町の入り口の前で呆然としていた、辺りを見回しても特に変わった様子はない。今までの出来事がまるで夢のようにも思えてならないが、それもこれも全て玉藻御前の幻なら、大差もないだろう。

「あの、誠さん、大丈夫ですか?」

 おずおずと玉藻が誠に聞くと、誠は不思議そうな顔をして、何が? と聞き返した。梓と玉藻が顔を見合わせ、さっきまで様子がおかしかったこと、霊力がないはずの誠が霊術を使っていたことを言うと、誠は驚きの声を上げた。

「タマちゃんが死にかけてた時くらいから、なんか記憶がおぼろげで覚えてないんだよねぇ」

 もしかして、憑かれてたのかも、車を走らせながら誠がぽつりと呟いた。三人は一旦封印の様子を確かめに、実家へと向かいだした車中で、今までのことを聞いてくる少年に、一通り説明し、ふと、少年の正体が気になり聞いてみた。

「ぼく? ぼくは、座敷童だよ」

 助手席に座る少年が誠にニコニコと笑いかけてくる。三人は小さく驚きの声を上げた。

 誠の実家に着くと、伸と薫が四人を出迎えた。三人は玉藻御前に襲われたこと、だが玉藻御前を退けたこと、を二人に伝えると二人は感心したようにうなずいた。


「それで、父さん、封印は?」

 誠の一言に伸がついてこい、とだけ声をかけると、三人は伸の背中を追いかけた。

 四人が封印の間に辿りつくと、伸が封印の間の戸をあけ放った。部屋を埋め尽くすほどの人形を見て、梓が小さく悲鳴を上げると、誠と玉藻は顔を見合わせ笑い出す。梓がむっとして二人を見ると、ほぼ同時に二人は視線をそらした。

「封印は、大丈夫だな」

 伸はそんな三人を見て苦笑したあと、箱の中身を確認してから頷いた。

「そっか、ならよかった」

 ほっと息をつく誠に、ところで、と伸が切り出す。霊感も霊力もなかったはずの誠に、玉藻御前を退けるほどの力が目覚めたなんて信じられない、としげしげと伸が誠を見つめる。そして、伸がにっこりと笑いながら、家を継ぐ気はないのか、と聞いてきた。

「無理」

 誠が伸の笑顔に冷や汗をかきながら返すと、そうか、残念だな、と伸は少し項垂れた。誠はそんな伸の様子に少し罪悪感を覚えながら、そういえば、座敷童が旅館からついてきたんだけど……、と伸にどうすればいいか聞いてみる。

「大事にしろ」

 伸は少し驚いたあと三人を見つめそう返した。

 封印の間から出て、しばらく歩いていると、薫と少年が和気あいあいと何か話している。二人は四人に気付くと、おかえり、とニコニコ笑いかけてきた。

「ねぇ、ここにいる気はないの?」

 薫が少年にたずねると、少年は首を横に振った。そう、残念、と薫はしょんぼりとする。また遊びに来るから、と少年が声をかけると、薫の顔がぱぁっと明るくなった。

「じゃあ、事務所に帰ろうか」

 誠は三人をぐるりと見回してから、伸と薫に小さく頭を下げた。四人が車に乗り込み走り出す。誠の実家から離れ事務所に着くと、ようやく安堵の息をついた。誠と梓はいつもの定位置に腰を下ろすと、玉藻がお茶を淹れ始めた。

「ここ、探偵事務所なの?」

 梓の座る依頼者用の椅子の向いに腰かけた少年が、キョロキョロと辺りを見回しながら聞いてくる。誠と梓の二人は顔を見合わせ、こくんと首を縦に振った。

「そう、霊能、探偵事務所。看板には霊能って出してないけどね」

 二人がニヤニヤと笑いながらそういうと、控えめなノックが聞こえてくる。誠がいつものように依頼者に声をかけると、不安げな表情をした青年が顔を出した。

「ようこそ、弥永、霊能、探偵事務所へ」

 ニコニコと笑う誠を見て、青年は今日何度目かのため息をついた。

  • 11
  • 2
  • 0

猫人

はじめまして、猫人と申します。映画鑑賞、小説を書く事、絵を描く事、ゲームするのが好きです。見たり読んだりするのはオカルト関連ですが、執筆するのはSFと言うなんとも不思議な事がよく起こっています。ダークだったり、毒のある作品が大好きです。

作者のページを見る

寄付について

「novalue」は、‟一人ひとりが自分らしく働ける社会”の実現を目指す、
就労継続支援B型事業所manabyCREATORSが運営するWebメディアです。

当メディアの運営は、活動に賛同してくださる寄付者様の協賛によって成り立っており、
広告記事の掲載先をお探しの企業様や寄付者様を随時、募集しております。

寄付についてのご案内