ドイツを出発してから丸一日と数十分。
Mはイタリアの「マルティナ・フランカ」という町の外れにある目的地にたどり着いた。
聖地巡礼をする人なんていないだろうから位置を詳しく、ざっくり言うと、Bosco Pianelle公園の近くの道路「SP581」沿いだ。
時計を見ると針は20時を過ぎており、辺りは街灯が無く薄暗い。
普通の人なら時間指定されていないから次の日にしようと思うが、Mに関わってる奴らに「時間」なんて概念はない。
むしろ、今の時間が仕事を行う「活動開始時間」だったりする。
Mは屋敷前の門に貼り付けられているあまりにも不自然なボロボロのブザーを押す。
「どちら様ですか?」
「Mだ」
「…かしこまりました。ご自身の車に乗りながらお待ちください」
ブザーの上にあるスピーカーからザラザラとノイズ混じりで女性が対応した。
Mは自身の名前を名乗ると再びノイズ混じりの声で返される。
心なしかどこかで監視されている感覚になり、Mは門の周りを車に乗り込むまでの間に相手に気づかれないよう辺りを見渡すとチカッと赤く光るものが目に入った。
木の間に見えにくいが、一度見つけると異様な存在感を放っている防犯カメラだ。
カメラはブザーとは違い、異様に新しく小型な為、高性能に見える。
ということは、ブザーがボロボロなのは声をあえて聞き取りにくくするためのものだとMは推測した。
そんなことを思いつつ辺りを警戒しながら車を走らせ、黒を基調とした豪邸の前に車を止め、辺りを見渡してみる。
玄関前には赤いバラしか植えられておらず、所々にある西洋的な間接照明が花びらを美しく見せる。
そして、屋敷の隣にあるガレージには植えられているバラと同じぐらい赤いイタリアの高級スーパーカーメーカーの「ランボルギーニウラカンSTO」と、カラスの様に漆黒なイギリス王室御用達の高級自動車メーカーの「アストンマーティンDBX707」が独特のオーラを出しながら止められている。
どれも3~4000万は軽く超える為、どういう手段かはどうでもいいが、かなり儲けているのだろう。
「お待たせしました。こちらへ」
何気なく遠目で眺めていると玄関からいかにもメイドといった装いの女性が現れ、Mを屋敷内へと案内する。
屋敷内はシャンデリアなどの豪華な装飾はあるが、不気味なほどに色が黒、差し色は赤かピンクしかない。カーテンやドアノブでさえ黒という徹底ぶりだ。
家主のこだわりが嫌というほど、気持ち悪いレベルで伝わってくる。
そんなことを考えながらメイドについていくと、家主の女性が黒とピンク色、装飾が金色の玉座に偉そうに座っている部屋に案内された。
なぜ家主とすぐに分かったかと言うと、玉座に座っているのもそうだが、髪の色は蛍光色よりのピンクで目もカラコンなのかは分からないがピンクだ。
そしてドレスは黒にピンクのライン入りと正直キリがないぐらいに屋敷内の色合いと一緒だ。
逆にこんな格好で家主ではないと言ったら馬鹿としか思えない。
Mはめんどくさそうだと感じ、さっさと帰りたくなった。