不思議図書館・追「1:きっかけ」

ーこれは、あらゆる世界から流れてくる本を管理している「不思議図書館」で起きた話ー

「私」は不思議図書館で起きた「ある事件」を本にしようと思って、ペンを走らせていた。

「書き終わったの?」

「はい!しっかり書きましたよ。」

「「観て」もいい?」

「はい、もちろんです。」

「私」は出来上がったばかりの「本」を「彼女」に手渡す。

「彼女」はゆっくりとページをめくり始めた…。

それは、不思議図書館で起きた「大悪魔(バアル)事件」から半年ほど経った頃。

…最初にきっかけを起こしたのは、サラミだった。

事件後の少し後、サラミは野良猫時代の友達…姉御と慕っていた野良のメス猫を亡くしたのだ。

サラミが姉御肌っぽくしているのは、その姉御に憧れたせい。

姉御は強かった。他の猫が怖気付くような動物にも、ナワバリを侵す者には立ち向かって追い払っていた。

ただ、姉御には持病があり、感覚が弱くなっていたところをやられたらしい。

病院に連れて行こうとしたが、姉御は拒否した。

姉御が亡くなった後、サラミはマフラーを外し、自分や姉御の尻尾に似たファー付きのチョーカーを代わりに付ける。そして鍛錬した。

「(アタシは弱い。姉御を…図書館でもユリィ様の魔術が無かったらイミアを助けてあげられなかったかも知れない…もし、みるが姉御のようになってしまったら…)」

サラミはナワバリを…仲間を守っていた姉御と、1人で大悪魔に立ち向かった、みるを重ねる。

「(強くなりたい!それこそ姉御のように「守るため」に!みるを守れるように!)」

その夜、サラミが眠っている間にサラミのチョーカーには、どこからともなく猫のチャームが現れて、くっ付いていた。

…次のきっかけは、イミア。

イミアも図書館の事件以降、何か自分に出来る事を増やせないか模索していた。

しかしどうしても自分だけでは思いつかず、自分の先生でもある神霊のユリドール…ユリィに相談することにする。

「あたしも自分で自分を守れるように…先生やみる達と戦えるようにしたいんです!」

「…イミアの魔力は弱いものねぇ。うーん…」

事実だがアッサリ言われて、ちょっと凹むイミア。

「まあ、方法が無い訳では無いけど。」

「ホントですかっ!」

「魔力を宿した武器を作ればいいのよ。物に魔力を溜めておくの。」

「その魔力はどこから…?」

「みるに貰うか「精霊の庭」から材料を取ってくるしか無いわね。」

「精霊の庭?」

「文字通り、精霊だけが住む場所のひとつで、そこの自然には魔力が宿っているの。」

「へぇ〜!どうやって行くんですか?あたしの能力で行けますか?」

「行けないし、入れないかも。あと精霊が住む場所は帰りがコワいわ。精霊は持ち込みも持ち出すのも嫌うし、悪戯好きが多いし。」

「え…、そ、それじゃあ材料は無理じゃないですか。みるに魔力を貰うしかないのかな。」

イミアがガックリと落ち込んでいると、玄関から20センチ程の謎の生き物が、てくてくと庭にやって来る。頭に大きな双葉を付けた、身体が白くて大根のような生き物。

「あら、マンドレイクちゃん。久しぶり。」

「マンドレイク…?マンドレイクって、マンドラゴラですか?」

「そうよ、ちょっと前にこの庭に住み着いたの。野良猫みたいなモノよ。」

マンドレイクとは、ナス目ナス科マンドラゴラ属で、地球の欧州から中国にかけて自生しており、魔術や錬金術の材料としても登場する伝説のハーブだが、引き抜くと世にも恐ろしい悲鳴を上げて、その悲鳴を聞いた人間は死んでしまうと噂されている。

「地球系の世界ではそう言われているけど、このマンドレイクちゃんは、精霊の庭と、ここと、他にも色々な場所をウロウロしている魔法精霊よ。」

「精霊の庭!?」

ユリィの言葉にビックリしているイミア。そんなイミアをマンドレイクはジーッと見た後、てくてくと庭の隅にある植木鉢に飛び込み、何かを出してイミアの元に駆け寄り、ハイ。と言うように差し出した。

「えっ…?あたしに?」

マンドレイクは、ウン。と言うように頷いて、イミアの両手にそれを乗せる。そうするとまた、てくてくと植木鉢の方に行き、すっぽり入ってしまった。もうただの双葉が生えた植木鉢にしか見えない。

「何を貰ったの?」

ユリィが興味を持って顔を覗き込むので、イミアはマンドレイクから貰ったものをテーブルに置いた。

黄緑色で大の男の拳くらいある塊…つまり、石。

「あら、良かったわね。それは精霊の庭にある石よ。自然な魔力がたっぷり詰まっているわ。」

「ええーっ!!?」

驚くあまりにマンドレイクの植木鉢と石を交互に見るイミア。確かに今欲しかったもので、嬉しいが…タイミングが良すぎる。イミアがユリィを見ると、彼女はにっこり笑って言う。

「せっかくなんだから、ありがたく使いなさいな。マンドレイクちゃんも貴女にあげたいと思ったんだろうし。」

「そう…ですね。ありがとうございます!マンドレイクさん!」

イミアが深々と頭を下げると、マンドレイクの双葉がぴょこっと少しだけ動いた。それだけ。

「良いところに持って行って作ってもらうから、イメージのメモでも貰えるかしら?イミア。」

「あっ、はい!お願いします、先生!」

それからイミアはユリィと共に、どんな武器にするかをじっくり考え、石とメモをユリィに預けて良いところの鍛冶屋に行ってもらった。

数日後…。

イミアは普段とは少しだけ違う服を着て、配達の仕事に取り組んでいた。その途中。

「よぉ、イミア。久しぶりだな。」

イミアに近寄って来た、濃くやや暗めの緑色の髪に、デカデカと[yabame]と書いてあるTシャツを着た男。

「あっ、ノーヴ。久しぶり~!」

彼は「ノーヴ」。速さが売りの「速達屋」でバイトとして働いている男で、イミアとは同じ業種ということで、よく仕事中に話したり、客の要望によってイミアの「運び屋」と「速達屋」でやりとりをすることがあり、それで話すこともあった。

「そうだ、ノーヴ。これ、返すね。」

イミアは前の服にずっと付けていた、赤い宝石のブローチをバッグから取り出し、ノーヴに手渡す。それをノーヴはポカンとしてから、言い寄ってきた。

「はぁ!?俺様が渡したモンじゃん!ずっと付けてろっていったじゃ…」

ノーヴはイミアの胸元を見ると、イミアの服には黄緑色でハート型の宝石のブローチが付いているのを見てハッとし、ニヤリと笑う。

「ふーん。そうか…わかったぞ、女か。」

「いやそういうのじゃなくて・・・女?」

「何も言うな。わかっている。だが!後で後悔しても遅いからな!俺様の施しを拒否した罪は重いぞ、イミア!ふっふっふ…」

ノーヴは(いちいちポーズを取りながら)言うだけ言うと、赤い宝石を握りしめて去っていった。

「相変わらずだね、ノーヴ…悪い人じゃないんだけどね…。」

イミアは少し呆れつつ、自分の仕事に戻っていく。

これが後に大事件に発展することになるとは、この時は全く思っていなかった。

終わる。or 関連本の追求。

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メルン

小説を書くのが好きな、アニメ・ゲーム・読書が趣味の人です! 目についたものや不思議なことを小説にしたり、絵にも挑戦したいです。 ほのぼの、ほんわか、ちょっと謎な話もあるかも…?

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