…後日。
珍しくレフィールから集まってほしいと言われ、不思議図書館の一室には、みる、イミア、サラミ、むつぎ、ゼルル、ユリィ、そしてレフィールが揃っていた。
「レフィールさんから話なんて珍しいね?」
「私も内容聞いてないんだけど。何?レフィ。」
「……昨日、カルムから連絡があった。」
初めて聞く名前に戸惑うイミア、サラミ、むつぎ、ゼルル。
みるは明らかに面倒そうな顔になり、そんなみるの顔を見たユリィは苦笑する。
「ミィとユリドールは知っているだろうが、この不思議図書館と、図書館があるこの世界…不思議図書館世界は、元々とある魔術師の所有地だった。前の事件があり、オレとカルムがこの世界の所有権を魔術師から貰い、それをユリドールに渡して、今この世界の権限はユリドールにある。」
「世界の所有権とか権限って…そんな売られてる土地みたいに、世界もホイホイ人のモノにしていいのか?」
「普通の世界にそんな権利は無い。不思議図書館という建物があるから、この世界は作られて管理される事になった。…地球で言う、重要文化財とか、保護区域とかと同じだ。」
皆がその説明で納得していると、イミアが別な疑問をレフィールに投げかけた。
「?…不思議図書館があるから、この世界は作られたって言いましたか?」
「ああ。普通は逆だ。世界が生まれて生命が生まれる。この世界は本当に不思議図書館の為だけに作られた世界だ。だからこの世界には不思議図書館以外の物はほぼ無い。」
「この世界って、そうだったんだ…。」
「あら、みるの家や、イミアとみるが修業したあの家もそうよ。私達の場合は、俗世から離れたいから、ちょっとした世界と世界の隙間を使っているだけ。」
「魔術師達はだいたい同じ方法で自分の居住地を持っているな。」
「それって世界の理に反しているのではなくて?」
「時間が流れて歴史が生まれて、ちゃんと世界として成り立っているならな。ただ空間だけを使って時間が流れ無い世界は、世界の理には該当しない。…だが、新しく世界を作るのではなく、世界と世界の隙間にそういう空間を作るだけにするのが、暗黙のルールになっている。」
イミアからの問いにユリィも加わり、更にはゼルルの疑問にも淡々と答えるレフィール。
「話を戻すが……今不思議図書館と、この世界の権限はどうなっているかをカルムに聞いた。その返事を聞きに来い、と連絡があったんだ。」
「…レフィが1人で聞いてくればいいじゃん。」
やたらと面倒そうな、みるの態度にユリィ以外は疑問を抱く。レフィールも面倒そうな表情で言った。
「お前が1番わかっているだろう、ミィ。返事を聞きたければ、お前を必ず連れて来いとさ。」
「えええ〜…。」
「あと、むつぎ。貴様もだ。」
「は!?俺!?」
「不思議図書館の司書として、あとミィに寄ってきた男として話があると。」
「寄ってきたって…レフィールやユリィ様ならともかく、何で見ず知らずの魔術師がそんなことを…」
ますます困惑するむつぎに、レフィールはサラッと衝撃的な事を言ってやる。
「カルムはミィの育ての兄。ミィがここまで魔法を使えるようになったのは、カルムが魔法を教えたからだ。」
「「……はああああ!?!?」」
図書館の一室に、4つの声が響く。
「っ…この不思議図書館の元々の所有者の魔術師は、カルムの弟だ。だが他人との交流を嫌い、篭って魔術の研究ばかりしている奴でな。カルムが仲介役をしているという訳だ。」
その響いた声に一瞬耳を塞いだが、それでもレフィールは補足をした。
「魔術師って、そんなものよ。その更に上が魔術を教える魔導師で、よっぽど腕も人望も無いと魔導師にはならないわ。」
ユリィが心底呆れてヤレヤレという態度をしているのは、やはり他の魔術師とも何かしら交流があり、どの魔術師も「そんなもの」なのだろう。
「という訳で、明日、オレとミィとむつぎとは強制だ。後はどうする?」
「私は行かないわよ。別に用も無いし。」
「そうなれば、ワタクシはお兄さまの代わりに図書館を守らなければなりませんもの。」
「アタシは行ってみたい。」
「あたしも!」
「この5人だな。カルムにそう伝えておく。」
レフィールは早速特殊な携帯を取り出して操作し始めたので、イミアがみるに質問した。
「ねえねえ、みる。カルムさんってどんな人?育てのお兄さんなんでしょう?」
「・・・・。」
みるは、口をへの字にして少し悩んだ結果、言い放つ。
「超・極端。」
それを聞いたレフィール以外の皆が「ええ…」と困惑しているのに対し、ユリィは全くもってその通りと言わんばかりに頷いている。
「じゃあ、怖かったりするの?」
「いや、優しいよ。優しいけど…うん…。」
またみるが口をへの字にして黙ってしまったので、それ以上みるから詳しい話は聞けずに、今日はお開きとなった。
・
…翌朝。図書館にゼルルを残し、むつぎはレフィールが図書館の出入口前に用意した、大規模魔術用の魔法陣の前に立つ。
いくらベルフェリオの記憶を取り戻したと言っても、ベルフェリオも自分の世界から外に出た事は無かった。正真正銘、初めての世界移動だ。
「緊張してんの?むつぎ。」
魔法陣の作成の為に早めに来ていた、みるとレフィール。だが、みるがむつぎの様子を見てちょこちょこと歩み寄って来た。
「緊張…なのか?落ち着かなくてソワソワする。」
「多分緊張だと思うけど、世界移動って言ったって、ただお家に行くだけだし、大丈夫だよ。」
「そうかな…。」
むつぎは不安気に胸のブローチを触る。不思議図書館からの特別外出ということで、みるとユリィから魔法と魔術をブローチに追加で施された。どこへでも行ける…という訳ではないが、これで不思議図書館とその世界を出ても大丈夫だと、みるとユリィから太鼓判を押されたのだ。
「おっはよー!みんな!」
「ふぁぁぁ…みんな早いな…むにゃむにゃ。」
そこへ今日も元気なイミアと、まだ眠そうに目を擦っているサラミがやってくる。
「…全員揃ったな。」
魔法陣の準備も整えたレフィールが近付いてきた。
「全員が魔法陣の上に乗ったら、ミィ、魔力と呪文を頼む。」
「はーい。」
ここまで来たら流石に嫌とは言えないらしい、みる。全員魔法陣に乗ったのを確認すると、魔法陣に魔力を流し始めた。複数人の世界移動なだけはあり、魔術らしい儀式のような段階を踏む。
そして、みるが呪文を唱えた。
「トランス・ディメンション!」
魔法陣から光が溢れ、一瞬身体が浮いたと思った瞬間には、もうそこは不思議図書館の出入口前では無い。むつぎ、イミア、サラミの知らない屋敷があった。
幽霊屋敷のような古さは無いが、かと言って近代的でもない普通の洋風の屋敷。
そこから扉が開いて一目散に「何か」が飛んできた。
「み〜〜〜る〜〜〜!!」
飛んできた「何か」はガバッと、みるに抱きつく。
「会いたかったぞ〜、みる〜!」
ひたすらに、みるの頭を撫でながら頬を擦り寄せまくっている「何か」は、人の姿をしている。
見るからに「いかにも魔術師です」と言わんばかりの濃い紫のローブと三角帽子、首と帽子の先端には水晶玉のような物を付けており、何故か帽子には丸い目のような模様が見えた。
黒に近い紅色の瞳に、みるよりは薄めの黒髪ロング。だが前髪中央と毛先が紫色という、何とも言えない見た目。良い顔立ちの男性ということはわかる。…行動は全く異なるが。
みるは男性の行動に諦めた表情をして、されるがままになっていた…が、レフィールが男性から、みるを無言で取り上げてようやく終わった。
「何をするんだレフィール!!せっかくの久しぶりの再会をジャマするとは!!」
「これ以上株を下げたくなかったら止めておけ、カルム。」
ポカーンとしている、むつぎ、イミア、サラミの視線にハッとした男性は、わざとらしい咳をして言う。
「コホン。…ようこそ、我が屋敷へ。そして初めまして、私は「カルム」。みるの先祖の魔導師の弟子の魔術師で、みるを育て上げた張本人だ。」
むつぎよりは大人、レフィールと同じか少し下っぽい年齢そうな男性、カルム。
…あんな行動した後で、ドヤ顔でなければ、それなりの格好がついたのに。
みるとレフィールはそう思いつつも黙っていた。
終わる。or 関連本の追求。