不思議図書館・追「2:魔術師の屋敷」(後編)

あれから、カルムにさくさくと屋敷へ案内された5人。立派で広い応接室に通されると「お茶を持って来る」と言って、カルムは応接室から出た。

応接室の棚の上には写真立てが飾られており、そこには2つのぬいぐるみを持って笑っている、みるの写真が入っている。

「あー!みる、可愛いー!」

「や、やめてよ!かなり昔の写真なんだから!」

「あれ?このぬいぐるみ、みるがいつも枕元に置いてるウサギのぬいぐるみだよな?」

「う、うん…誕生日プレゼントに、姉さまから白いウサギ、兄さまから黒いウサギのぬいぐるみを貰ったの。」

「カルムさんからは?」

「…張り合って私の身長よりどでかいぬいぐるみを買おうとしたから、全力で止めてバケツイチゴプリンを要求した。」

その一瞬だけ全員が、みるに同情したとか。みるは構わずぬいぐるみの話を続ける。

「白が、えーちゃん。黒が、すーちゃん。…本当はね、このぬいぐるみを使って「仕え魔(つかえま)」を作ろうとしたの。」

「仕え魔??使い魔じゃないの?」

「使い魔は普通の魔術を使える者なら誰でも使役できるが、みる…上位者クラスになると、その辺の使い魔と同じ扱いをされないように、使い魔ではなく「仕え魔」という使い魔の上位級に分類させられる決まりになっている。」

そこへお茶を持ってカルムが入って来て、イミアの質問に割って答えた。

「あの時、みるも友達が出来ると喜んだのだが、仕え魔契約に応じてくれそうな精霊が、次の日には契約前にも関わらず、居なくなってしまってな。」

「何度呼んでもきてくれなくて…。術を変えても誰も応じなくて…そのまま。でも仕え魔じゃなくても、大事なぬいぐるみだから動かなくたって私の宝物のひとつだよ。…本当はその精霊さんとも仲良くしたかったな。」

少ししょんぼりしたみるに、話を切り替えようとお茶を振る舞うカルム。

「何もないけど、みんなゆっくりしていってくれ。…ああ。」

にこやかに言うカルムだが、その表情のまま、むつぎの肩をガシッと掴んだ。

「貴様は後で庭に来い。」

「えっ!?えっ!?」

笑顔のカルムと困惑するむつぎに、レフィールが溜め息を吐いてから言う。

「止めておけ、カルム。そいつはまだ飛んで魔力の剣を振り回すことしか出来ない。」

「とんだ甘ちゃん大悪魔だな?だが、どれだけ初心者だろうが、私の!わ・た・し・の!みるに手を付けた罪は重い。そんなに使えないなら、レフィールが代理でも良いぞ?」

「はぁ?誰がそんなポンコツ司書の代理なんぞするか阿呆。」

「丸投げ泥棒にアホ呼ばわりされたくないわ!!」

むつぎの肩を掴んだまま、ギャーギャー騒ぐレフィールとカルム。そんな2人を見てサラミが、みるに問いかけた。

「もしかして…いつもこんな感じなのか?」

「うん…あんな感じ。」

みるは心底呆れた顔をしている。

結局むつぎはそのままレフィールとカルムに連行され、庭の魔法練習スペースで、レフィールの剣とカルムの魔法にボッコボコにされていた。

「流石、みるの魔法のお師匠さんなだけはあって、強いな。」

「ホント。さっきのみるにデレデレ具合がウソみたい。」

「私もウソなら良かったよ。」

関心するサラミとイミアに、みるは溜息混じりに言う。

…そのうち、ボロボロのレフィールとカルム、ボロ雑巾のようにぐったりしたむつぎが戻ってきた。

「ミィ、悪いがヒーリングをしてやれ。」

「はいはい。」

ポイッと捨てられたむつぎに、みるは回復魔法をかけてあげる。

「どうだった?」

「しぬかと思った…。」

回復中のむつぎに問う、みる。どうやら身体だけではなく精神的にもバッキバキに折られたらしい。

「俺は全然大悪魔の力を引き出せていないんだってさ…。ゼルルも言っていたけど、やみくもに魔法を使っているだけだって言われた…。」

「ぽいね。私もまだ感覚で魔法を使うクセあるけど。」

「ハァ…魔法の戦闘を覚えろって、こういうことか。」

「いや、それだけじゃないけどね。」

回復を終えたむつぎとみるが、皆の元に戻ると、既にケロッとしたレフィールとカルムも戻っていた。

「…で、結局、不思議図書館世界の管理権限はどうなっている?」

「今まで通り、ユリドールだとレインは言っていた。」

「・・・・だろうな。完全にお前が呼びたかっただけか。」

「当たり前だろう。どのくらいみるが帰っていないと思っているんだ!」

「じゃあ帰る。」

「あ、ま、待ってくれ、みる~~!!違うから!ちゃんと口頭で伝えたくて…いや、お前の顔も見たかったが…みる!み~る~!」

帰ろうとする、みるに、必死にしがみついて引きずられるカルム。

みるが帰りたがらない理由が何となくわかった気がする、むつぎとイミアとサラミ。

帰りの魔法陣の準備中、イミアはみるに聞いてみた。

「みる、カルムさんが言っていたレインさん?って誰?」

「カルムの弟で、同じ魔導師さんの弟子。でも滅多に外出も面会もしないで、魔法や魔術の研究をしているの。私もここにいた頃に会っていたけど…。」

「カルムさんみたいにデレデレなの?」

「いや、丁寧な口調で落ち着いた感じ。昔のむつぎを更に冷やしたような。」

「冷やしたって言い方はどうなの…。」

やがて帰りの魔法陣の準備が出来、不思議図書館のある世界へと帰ることになる。

カルムは最後まで「もう少しだけいてくれ~!みる~!み~る~~!!」と、今生の別れのような雰囲気で涙を流していた。

やっと不思議図書館に帰ってきたー!」

先程とは違い実に安心したような、みる。行きと同じく不思議図書館の出入口前に移動して、帰ってきた実感がそれぞれに湧く。

【お兄さまーーーっ!!】

ここにもカルムみたいな奴がいたか…と、むつぎ以外の全員が思っていた。

が・・・

飛んできたゼルルは図書館の建物からではなく、近くの茂みから出てきたのだ。それも酷くボロボロな姿で。

「ゼルル!?一体どうしたんだ!?」

【お兄さま…申し訳ございません、留守を預かった身ですのに…】

珍しく涙を流し、むつぎに泣きつくゼルル。その姿にただ事ではないと、他の者も気付きだす。

【図書館が…図書館が乗っ取られましたわー!!!】

「「ええっ!?」」

全員が全く同じ反応をした時。

「その通り!今日からこの不思議図書館は俺様のもの!!」

不思議図書館の建物の屋根から聞こえてきたのは、男の声。

全員が見上げると「yabame」と描いてあるTシャツを着た男がふんぞり返って屋根に立っていた。その隣には、黒いウサギ耳の帽子を被った少女がいる。

「俺様こそ、いずれ世界最強となる男ノーヴ!!そしてぇ!!」

「…はいはい、ボクは仕え魔のスーだよ。」

「ハーッハッハッハ!!この図書館、そしてこの世界は俺様達のものになった!!」

いちいち厨二的な決めポーズをしながら、男…ノーヴは高らかに宣言した。

終わる。or 関連本の追求。

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メルン

小説を書くのが好きな、アニメ・ゲーム・読書が趣味の人です! 目についたものや不思議なことを小説にしたり、絵にも挑戦したいです。 ほのぼの、ほんわか、ちょっと謎な話もあるかも…?

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