自室から出て廊下を歩き、一階のリビングへと辿り着く。テーブルの上に置かれた冷めた朝食を、電子レンジで温めなおしながらテレビをつけた。すとん、と隣に座る幸を横目で見た後、またテレビへと視線を移した。テレビでは、見慣れた朝のバラエティが流れている。
「相変わらず、父さんと母さんは仕事か」
キョロキョロと辺りを見回す幸に聞こえるよう、少し大きな声で呟いてみる。幸はどこか残念そうに、あの二人は相変わらずだね、と苦笑いしていた。
「ところで、さ、幸は俺の事とか、それ以外の事、どんだけ知ってんの?」
視線をテレビから幸に移したところで、電子レンジから音が鳴った。朝食を取りにソファーから立ち上がると、温めなおしたばかりの朝食を幸の前において、隣に腰掛ける。
「え? 食べていいの?」
驚いたように目を見開く幸を見て、ふと感情たちが食事をするかどうかが気になった。食べれるなら食べていいよ、と声をかけると、幸は箸を取って、小さな声でいただきます、と言ってから目玉焼きに手をつけた。
「あの、見られてると、食べづらいかな」
まじまじと幸を見つめていると、困ったように笑っている。あ、悪い、と言ってテレビへと視線を戻した。幸の小さな咀嚼音とテレビの音だけが、静かなリビングに響いている。
「ごちそうさまでした!」
幸は両手を合わせてペコリと頭を下げる、空になった食器を両手にキッチンへと歩いて行った。家の間取りも、食器の位置も把握済み、か……。俺の知ってることは幸も知ってるのかもしれない、逆を言えば俺の知らないことは幸も知らないのか。
「いつも朝はこの番組だよね? 好きなの?」
キッチンから戻ってきた幸が、俺の隣に腰掛けながら聞いてきた。他に見るのもないから、と返すと、まぁこの時間帯はニュースばっかりだもんね、と返された。
「で、さっきの質問の答えは?」
質問? と不思議そうな顔をする幸に、どんなことを知ってるのか、ってこと、と半ば呆れながら言った。
「君の知ってることは知ってるし、君の知らないことは知らない」
俺の予想通りの答えに思わず、やっぱりか、と小さな声でつぶやいた。
「俺が今、考えてることとかは、幸に伝わるのか?」
幸はきょとんとしたあと、ぶんぶんと首を横に振った。ホッと胸をなでおろしていると、何かいけない事でも考えてるの? と聞かれてしまう。
「別に? 何も考えてない」
明後日の方を見ながら返すと、幸が本当に? と俺の顔を覗き込んできた。本当に、と少しムキになって幸の顔を見つめ返した。
「まぁ、君がそう言う事を考えるタイプじゃないのは、実は知ってるんだけどね」
そう言っていたずらっ子のように笑う幸の額に、軽いチョップをかますとはぁとため息をついた。いや、もしかすると、安堵の息だったのかもしれない。
「家でダラダラするつもりだったけど、どこか行くか?」
大きく伸びをしながら声をかけると、幸は嬉しそうに笑っていた。