辺りを見回し幸が近くにいないことを確認してから、はぁと大きなため息をこぼした。はじめ、自分から一番遠い感情だとしても、受け入れられる気でいた。気は合わないかもしれないが、上手くやっていける自信もあった、でもいざ接してみると無理だった。
「夢、か」
叶えるものでもない、叶うものでもない、ただ見るだけのものだと思う。ああだったらいい、こうなったらいい、そう見ているだけのものだ。どれだけ夢を見ていようが、いずれ目の前に来るのは残酷な現実だから、夢物語なんてフィクションの中だけでいい。
「やっぱり、ここにいた」
幸の声がして恐る恐る振り返ると、予想通りすぐそこに立っていた。肩で息をして眩しい笑顔を俺へと向ける。劣等感に満たされて、現実しか見れない俺に、夢そのものが追いかけてくるなんて、なんて言う皮肉だろう。
「君の事は、君と同じくらい知ってるんだから」
どれだけ逃げようが追いかけてくるんだろうな、こいつ。昼飯でも買っていくか、と声をかけてコンビニの中へと入っていく。やる気のない店員の声を聞きながら、店の奥へと進んでいく。後ろを振り返れば、キラキラと目を輝かせる幸がいる。
「いつものでいいか」
食べ物でも冒険はしない、まえ気まぐれで新商品に手を出したら、結局いつもの弁当が一番美味く感じたからな。食い慣れた弁当を選んだ俺とは対照的に、真新しい期間限定の弁当を選ぶ幸を見て思わず苦笑する。会計を済ませて外に出ると、うだるような暑さが襲ってくる。
「せっかく温めてもらったんだし、たまには外で食べない?」
家へと向かおうとした俺をひきとめる幸に、返事代わりに大きなため息をついて見せる。たまにはいいじゃん、と引き下がる様子のない幸に手を引かれ、前の公園とは別の公園までやってきた。ベンチに座り早速弁当を広げる。
「おいしい?」
ニコニコと笑いながら聞いてくる幸に、まぁ普通、とそっけなく返す。外で食べるとおいしく感じる筈なんだけど、としょんぼりとし始める幸に、まぁ家で食べるよりはな、と返す。ぱぁっと明るく笑う幸を見ていると、この先二人でやっていけるかどんどん不安になってくる。
「幸、お前さ、自分が何か分かってる?」
弁当を食べ終えると、幸に声をかけた。何、って? と相変わらず不思議そうな顔をしている。だから、何の感情か、とか、と付け足すと、あぁ、そういうこと、と笑う。
「分かんない、でもきっと悪い感情じゃないと思う」
ポジティブだな、自分が何かもわからなかったら、普通不安になったりするもんだろうが、何というか明るいというかどこかバカと言うか……、俺が呆れているのが分かるのか、幸がぷくっと頬を膨らませて怒った。