アナタの忘れ物は夢ですか? 6

 家に着くと物置にしている部屋へと向かう、どこか埃くさいそこにあるのは、人に忘れ去られたガラクタばかりだ。そのガラクタの中から、使っていた絵筆や絵の具やらを引っ張り出し、自室へと運んでいく。机の引き出しに入れっぱなしだった画用紙と、持ってきた絵筆や絵の具を幸に手渡すと、困ったように俺を見る。

「描かないのか?」

 下絵くらい描かせてほしいな、と苦笑する幸を見て、机の上に置いておいたシャーペンを渡した。幸はそれを受け取ると、なにやら画用紙に書き込んでいく。サラサラとシャーペンが紙の上を走ると、少しずつそれが形を成していった。

「犬?」

 分かる!? 画用紙から俺へと視線を移し、明るい声を出す幸に頷く。上手くはないが、何を描いてるかくらいは分かる、生まれて初めて描いたにしては上手い方かもしれない。それにしても、初めて描くのが犬、か、人じゃないのに少し驚いた。

「こう、もっと、なんかこう、なんだろ、上手くいかない……」

 幸は出来上がった犬の絵を見て、腕を組んでうなり始める。人とか物とかは描いてきたが、いきなり犬を描かれると、俺もアドバイスしようがない。というか、俺と同じで何も見ずに描き始めるんだな、もし描き続けるのなら、その癖直したほうがいいぞ。

「でも、楽しい! 真っ白な紙が、自分の絵で埋まっていくのっていいなぁ」

 うまくいかずとも、絵を描くこと自体を楽しんでるのか、随分前だけど俺もそういう時があったな。描いてるだけで、表現してるだけで楽しい、って時、あれいつだったかな。

「色、塗るんだろ? 俺がそうだから言うけど、失敗するなよ?」

 幸は俺の言葉を聞いて絵の具とパレット、そして絵筆を取った。ちらっと横目で俺を見てから、絵の具をパレットに出すと、ぐるぐると色を混ぜ始める。絵の具を水で伸ばし、思い思いに色を塗っていく、初めて塗るのに何の迷いもないように見えた。

「アドバイス、ないの?」

 しげしげとその様を見つめていると、幸がふと顔を上げて俺を見た。俺は首を振って、どうせ描くなら、好きに描いてほしい、とだけ伝えると幸は目を見開いたあと、嬉しそうに笑いだす。

「幼稚園の先生ってこんな気持ちかな」

 辺りに飛び散る絵の具を見ながら、ため息混じりに呟いた。え? と不思議そうな声を出す幸に、いいから続けて、と声をかける。暫く時間がかかりそうだ、時計を見上げてから、自室から出て飲み物を取りに行く。いつまでも幸と同じ部屋、ってのもまずいよなぁ、とか、あの絵、どうせなら額に入れてみようか、とか色々考えた。

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猫人

はじめまして、猫人と申します。映画鑑賞、小説を書く事、絵を描く事、ゲームするのが好きです。見たり読んだりするのはオカルト関連ですが、執筆するのはSFと言うなんとも不思議な事がよく起こっています。ダークだったり、毒のある作品が大好きです。

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