皿にのったケーキをさっさと食べ終え、歯を磨きに自室から出ていく。階下から聞こえてくる賑やかな声にうんざりしながら、洗面所の方へと歩いて行った。さっきから嫌な考えが消えない、ああやって仲良く食卓を囲んだのは久々だ、根暗な俺なんかより幸みたいな根明な子の方が二人にとっていいのかもしれない。なんだよ、俺、自分の感情に振り回されるなんて、らしくない。しかも、自分の感情に嫉妬するだなんて、あほらしい。
「どうしたの?」
ふと幸の声がして振り返る。そこには不思議そうな顔をした幸が立っていた。ふと自分がぼうっとただ洗面台の前に突っ立っていたことに気付く。なんでもない、と自分でもぶっきらぼうに聞こえる言い方で言うと、雑に歯を磨くと心配そうな顔をする幸を無視して自室に戻る。自室のドアを閉めると、それを背にしてズルズルと座り込んだ。
「かっこ悪」
幸と出会ってから、ずっと俺なんかかっこ悪いよな。なんつうか、らしくない、というか、いつも通りじゃいられない。別にある意味自分自身なんだから、かっこつける必要ないんだが、ここまでかっこ悪いと年相応に気恥ずかしいというか、情けなくなってくるというか、そうやって暫くして頭を抱えて唸っていると、控えめなノックが聞こえてくる。
「あの、私」
ドアの向こうから幸の声がする。どこか不安げな声を聞いて、ウロウロと部屋を歩き回った後、鍵、開いてる、とだけ声をかけた。
「入るね」
そう言って幸が部屋の中へと入ってくる。どこか気まずい沈黙が続いた後、絵、飾ってくれたんだ、と部屋の壁に貼られた絵を見上げ、ぽつりと幸が呟いた。
「あぁ、記念すべき一枚目、だから」
俺も幸と同じように絵を見上げる。君の絵は、飾らないの? とどこか残念そうにする幸に、自分の絵を自分の部屋に飾るか? フツー、と相変わらずぶっきらぼうに返してしまう。それもそうだね、と苦笑する幸を見て、ボリボリと頭を掻いた。
「空いてる部屋、もらったの。私は君と同じ部屋でもよかったんだけど」
いや、駄目だから、少なくとも俺は、と照れたように笑う幸につっこんだ。どうして? とあからさまにショックを受ける幸に、駄目なもんは駄目なの、と半ば呆れながら返す。もとは同じでも、今は違うんだから、というか少し考えれば分かるもんだと思うけど……。
「うん、ちょっと元気になったっぽいね」
幸はそう言ってニコッと笑うと、じゃあまた明日、と言ってひらひらと手を振って出ていった。まさか元気づけるためだけに来たのか? なんというか、なんだかんだ良い奴なんだよなぁ……、あんな根明そうで良い感情が、俺にもあるなんて信じられないな。
「あー、疲れた! うん、今日は疲れたわ。寝よ」
朝起きてからずっと調子を崩されっぱなしで、漸く休めると思うとどこかせいせいとする。電気を消し、ベッドにもぐりこむ。寝る前はいつもグルグルと考え込んでしまうが、今日はよほど疲れていたのか、しばらくぼうっとしているうちに眠ってしまった。