アナタの忘れ物は夢ですか? 11

 電車から降り改札を抜け、駅から暫く歩く。漸く見えてきたショッピングモールには、人がごった返しているように見える。早くも踵を返そうとする俺の腕を、幸がぐいぐい引っ張り始めた。そうだな、ここまで来て帰ったら、電車賃がもったいない。

「知ってはいたけど、やっぱり広いねぇ」

 俺を逃がさないためか、頑なに腕を組んだまま、離そうとしない。まぁこんなに人がいたら目立つこともないだろう、とどこか諦めながら映画館? のフロアまでエスカレーターで上っていく。

「そういえば、今日は何見るの?」

 知らないでついてきたのか、ため息混じりに返す俺に、だって急だったからと幸が頬を膨らませる。次のエスカレーターへ移動しようとすると、ゲームセンター? フロアに、どこかで見た顔を見つけ思わず立ち止まってしまった。数人の年下らしき少年の中に、中学時代、美術部の後輩が見えたような気がしたが……、俺の視線に気付いたのか後輩が手を振っている。

「おー、先輩、奇遇っすね」

 あぁ、そうだな、と素っ気なく返すと、ふと後輩の視線が幸へと移る。ニヤニヤと笑う後輩に、あぁこいつは、アレだよ、アレ、と慌てて説明した。後輩は少しガッカリしたように、俺と幸とを見比べた後、何の気なしにあの話題を振ってくる。

「先輩、今も絵、描いてんすか?」

 いやぁそれが描いてないんだわ、と作り笑顔がひきつるのが分かる。えぇ、あれだけ好きだったじゃないすか、と目を見開く後輩を見て、やっぱゲームの方が好きでね、と相変わらず作り笑顔がまた引きつる。

「そうっすか、いや、もったいないなぁ。俺先輩の絵好きだったんすけど」

 俺が絵筆を折る原因になった後輩が、心底残念そうに言うもんだから、本気で逃げ出したくなってきた。そんな俺の心情を知ってか知らずか、映画、間に合う? と幸がどこか不安げな視線を俺へと向けてくる。

「悪い、そういや、映画見るんだった」

 あ、邪魔しちゃいましたね、と後輩は友達の場所へと戻っていった。暫く手を振ってから、次のエスカレーターへと向かっていると、ふと幸が暗い顔をしているのに気づく。

「あの子、相変わらずだね」

 そうやって苦笑する幸が、俺が彼に心底嫉妬していること、あぁいう奴だから嫌いになり切れないこと、彼に対する色々な負の感情を知っているんだ、と自然と伝わってくる。本人にとってはただの部活の先輩でしかないんだろうが、俺にとっては絵を描かなくなった理由の根源だ。好きになり切れるわけでも、嫌いになり切れるわけでもなく、ただただ嫉妬した。もう名前さえ覚えてなくとも、その事実だけは俺の胸の奥にしこりとして残っている。

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猫人

はじめまして、猫人と申します。映画鑑賞、小説を書く事、絵を描く事、ゲームするのが好きです。見たり読んだりするのはオカルト関連ですが、執筆するのはSFと言うなんとも不思議な事がよく起こっています。ダークだったり、毒のある作品が大好きです。

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