アナタの忘れ物は夢ですか? 12

 見ようと思っていた映画の時間を調べなかった俺が悪い、とはいえここまで来てまさかレイトショー以外にもうやってないとは思わなかった。がっくりと肩を落とす俺を見て、幸が気を利かせたのか、それともただの気まぐれか、服を見に行きたいと言い出した。

「あぁ、そういえばそうだったな、ここら辺で待ってるから行ってこい」

 えぇ? 来てくれないの? としょんぼりとする幸を見て、モゴモゴと口ごもりながら、俺にファッションセンスを期待するなよ、と小さく呟く。幸は暫くそんな俺を見つめた後、それでもいいから! と俺の手を引き始めた。

「ほんと、今度はガチでアドバイスも何もできないからな?!」

 念押しする俺に、幸が、分かってるよ、なんでもね、とニコニコと笑いながら手を引く。エスカレーター付近にある案内板のようなものから地図を取り、真剣な顔でじっと地図を見つめた後やがて諦めたように幸が歩き出す。相変わらず、俺の手は引いたままだ。ぐるりとショッピングモールの中を歩き回りながら、気になる店に立ち寄ってはああでもないこうでもないと繰り返し、ようやく辿り着いたそこはよくあるカジュアルファッションのチェーン店だった。今幸が着ている女子らしい、どこかふりふりとした服とは真逆だ。

「こういう店が好きなのか?」

 お財布と相談したの、と幸はしょんぼりとしたあと、でも着こなしたらかっこいいよね! と目をキラキラさせる。まぁでも、ここなら一通り揃うだろうしよさそうだ。じゃあそうだな、ちらと時計を見上げてから、じゃあ三十分後、レジのところらへんで、と繋いでいた手を離した。うん! じゃあ、また後で! とびきりの笑顔で手を振る幸を見て、小さく手を振り返して自分の服を選びに行った。

「一人で服買うなんていつぶりだろ」

 基本的に母さんの買い物に付き合う形で、自分の小遣い内から出して買ってたけど、それ以外は全く買い物に行くことすらなかった。たまに出かけるとしても、飯を買いに行くとか、気になるゲームを買いに行くとか、そう言うのばっかりで服を買いに行くのなんていつぶり、いや下手したら初めてかもしれない。

「予算内で収まればいいけどな」

 だいいち母さんから幾らくらい持たされてるのかとかまるで分らないけど、まぁ流石に予算オーバーまで買うってこともないだろう。にしても、ここの服って、着こなせたら確かにかっこいいんだが、着こなせなかったら恐ろしくダサくなるんだよな。いつもライバルチェーンでしか買わないから、どう組み合わせればかっこよくなるのか、とかもまるで分らん。テレビでやってた着こなし術とか、もっとまじめに見とくんだったな。

 あぁだこうだやってるうちに時間が来た、結局見て歩くだけで一枚も買わなかった俺とは対照的に、両手にレジ袋を持って幸がやって来たのにはビビる。俺が買わなかった理由の一つに、質も値段も上がってることがあったんだが、女子ってのはこんなに金がかかるもんなのか……。まぁ女だろうが男だろうが、服にこだわるやつはこだわるしな。普通か。

「てか俺がおかしいのか」

 幸に持たされたレジ袋を片手に、深く重いため息をついた。せっかく来たんだから、俺も何か買いたいところだが、ここまで大荷物になると帰った方がいいのかもしれない。うんうん唸っていると、幸が突然俺の持っていたレジ袋を持っていく。

「重いから持たせたんじゃないのかよ」

 少しキレ気味に言うと、私ばかり買ってもつまらないからね、とニコリと笑っている。コイツ、なんだかんだ気が利くんだな。と思った瞬間、小さな声で、ここなら画材も売ってるかもでしょ、と俺の目を見ずに呟いた。

「お前、もしかして、それが目的だったんじゃないのか?」

 ち、違うよぉ、と首を振る幸をじろりと睨む、予算内ならお前が欲しい画材も買ってやるよ、とため息混じりに返すと、違うの! といきなり大きな声を出す。

「違うの、前、文具屋さんで画材見てた時に、少し楽しそうだったから、また、絵、描いてくれるかなって。やっぱり、私諦められないよ、あんなに頑張ったのに。あんなに描いてきたのに」

 幸の両手に持っていたレジ袋が落ちる、その場にしゃがみ込み両手で顔を覆い、幸はわんわんと子供のように泣き出してしまった。慌ててレジ袋を両手に持ち、ひそひそ声の聞こえるそこから逃げるように、幸の手を取って走り出した。

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猫人

はじめまして、猫人と申します。映画鑑賞、小説を書く事、絵を描く事、ゲームするのが好きです。見たり読んだりするのはオカルト関連ですが、執筆するのはSFと言うなんとも不思議な事がよく起こっています。ダークだったり、毒のある作品が大好きです。

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