アナタの忘れ物は夢ですか? 15

 誰かに肩を揺すられ目を覚ました、よほど疲れていたのかソファーで眠ってたみたいだ。見れば母さんが困ったように笑っている、どれだけ疲れてんのと聞かれ、まぁそれなりに、と返し重い体をなんとか起こすと、ゆっくりとした足取りで自室へと向かった。
 自室の電気をつけてふと壁へと目をやる、飾られた犬の絵はやっぱりどこか楽しそうで、嬉しそうで本当にいい絵だと思う。まぁ、上手くはないんだが、子供のパワフルさというか、楽しげな雰囲気が伝わってくるのがいい。家族の絵を壁に貼るっていうのは、子供の絵を親が貼るっていうくらいだろうか、意外に親は小さい頃に描いた絵とか残してるよな。

「昔描いた絵、どこにしまったっけ」

 全部捨てたりはしなかったはずだが、納得いかなかったのは捨てた気がする。……ってなると殆どが燃えるゴミ行きか、気難しい陶芸家じゃないんだから、別に絵の一枚や二枚残しときゃ良かったな。かさばるもんでもないし、絵を描いたっていう証拠にはなるしな。
 ぐるりと部屋の中を見回す、ふと紙の束が目に入ってそれを引っ張り出した。パラパラとめくっていくと、何とも言えない出来の自分の絵が、消えては現れるのを繰り返す。うん、自分では上手く描けたつもりだったが、やっぱり見返すとあまり上手く見えない。

「それに、何も思い出さないな」

 ただ形を整えただけの絵が並んで、そこには何の感情もこもってないように見える。上手く描こうとするばかりで、本来の伝えたい物を伝えるって事が出来てない。下手な絵じゃない、これはきっと駄目な絵だ、ただモチーフを見せるだけの、それだけを考えた絵だ。

「楽しく描こう、って考えなくなったのはいつだったかな」

 少しずつ大人に近づくにつれ、周りの目が気になりだした。他の上手いやつらの絵を見て、自分の絵に何の魅力も見つけられなくなった。もともと大層な考えがあるわけでもないし、誇れる自分の価値観や世界観があるわけでもない、そもそも絵を描いて褒められたからっていう理由事態、他の奴らに取っちゃ小さい出来事だろう。

「ほんっと、つまんねぇやつだな」

 自分の絵に自信を持ててたのはいつだった? 胸を張って絵を描けたのはいつだった? 貴方らしい、君らしい、お前らしい、って言われても何も思わなくなったのはいつだ? 俺には絵なんか向いてなかったんだろう、多少向いてたとしても多少だ、頭でばかり考えて、心が何も動かない、何もない、俺の絵にも、俺自身にも何もないんだ。

「あ」

 ぼたりと絵の上に涙が落ちた、ぼとぼととこぼれ落ちる涙を、ただぼうっと眺める。声も上げずただ泣き続ける自分を、どこか遠くで眺めた。あぁ、なんか、もうどうでもいい、数少ない自分の絵に手をかける。ばらばらと床にまくと、一枚一枚手に取って破る。自分で作ったものを、自分自身で壊す、黙々とただ破り捨てていく。山になった紙の切れ端をかき集め、ゴミ箱へと投げ捨てた。少しだけ、ほんの少しだけだが、すっきりした、気がする。

「もったいないような、まぁでも、どうでもいいか」

 電気を消しベッドの上に寝転がる、さっきまで寝てたせいで直ぐには寝れない。ただ目をつむってゴロゴロと寝返りを打ち続ける、頭に浮かんでくる負の感情を無視して、ゴロゴロ、ゴロゴロと、ベッドの上を転がる。……無理か、起きよう。

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猫人

はじめまして、猫人と申します。映画鑑賞、小説を書く事、絵を描く事、ゲームするのが好きです。見たり読んだりするのはオカルト関連ですが、執筆するのはSFと言うなんとも不思議な事がよく起こっています。ダークだったり、毒のある作品が大好きです。

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