アナタの忘れ物は夢ですか? 16

 電気をつけテレビの電源を入れる、イヤホンから聞こえるくだらない話に、少しだけ笑う。そういえば、この頃ゲームしてない、なんだかんだ幸に振り回されて、自分のやりたいこともできてなかった。テレビ横に置いたゲーム機の電源を入れ、コントローラーを握る。何を遊ぶか迷っていると、ふとドアの外に人の気配を覚えた。イヤホンを外し、コントローラーをテレビ台の上に置く。鍵を開けドアを開けば、やっぱり幸がそこに立っていた。

「どうした? 寝れないのか」

 自分の事は棚に上げて聞くと、幸は小さく頷いた。幸を部屋に招き入れると、ふとゴミ箱へと目をやっている。慌てた様子で駆け寄ると、絵だったものを拾い上げていた。

「なんで、捨てちゃったの? それも、こんなに破ってまで」

 俺じゃなく幸がしょんぼりとしている。ボリボリと頭を掻きながら、お前には関係ない、とぶっきらぼうに返した。関係なくなんかない、君の絵は私の絵でもあるんだから! と真っ赤になった眼で俺をきつくにらみつける。

「なんだよ、キレるなって」

 幸の気迫に思わず後ずさる、何でコイツこんなに怒ってんだ? 別に俺の絵を俺がどうしようが勝手だと思うんだが、なんて思っても口には出せなかった。それもそのはず、幸がまた泣き出したからだ。さっきの俺とは正反対に、子供みたいに泣きじゃくっている。

「何でお前が泣くんだよ……」

 情緒不安定にもほどがある、俺が原因じゃなかったら励ましたところだが、今回は俺がやったことでコイツは泣いてるんだからどうしようもない。ただ背中をさすって泣き止むまで待つ。数分ほどそうやってたのだろうか、幸はようやく泣き止んでくれた。

「落ち着いたか?」

 幸は小さく頷き真っ赤になった眼を袖で拭う、はぁと安堵の息をつくと幸の顔を覗き込む。酷い顔だな、とニヤリと笑っていると、ムッとした顔で見つめ返してくる。たまにはゲームでもするか? とコントローラーの片方を渡してみた。俺がテレビの前に座ると、同じように幸も隣に座る。数少ない協力プレイゲームを選び、早速スタートボタンを押した。俺だけが音を聞いてるのもダメかと思い、イヤホンの片方を幸に渡す、なんだか妙に照れくさいような気がするが、まぁ俺たち二人だけだし問題はないだろう。
 やはりというか、なんというか、元々同じ奴だったせいか、息はぴったりだ。助けてほしいところでは助けてくれるし、初めてとは思えないほど順調にステージが進んでいく。ふと、何で黙ってるのか気にもなったが、夜遅い時間だからだろう、と勝手に一人で納得すると、目の前のゲーム画面に夢中になる。そうか、もう一人でゲームしなくても、幸がいるんだな……。遊び相手が自分の感情てか、夢っていうのも変な感じだ。

「まぁ悪くないけど」

 何が悪くないの? 幸がちらりと俺を横目で見る、なんでもない、気にすんな、そう言ってまた暫くゲームを夢中でやってると、突然幸が凡ミスを繰り返し始めた。

「もう寝るか?」

 こくりこくりと舟をこぎ始めた幸に聞くと、一瞬ハッとした顔をして目を開いた後、こくんと小さく頷いている。じゃ、また明日、瞼をこすりながら、手をひらひらとふって幸は俺の部屋から出ていった。ポーズボタンを押してデータをセーブする。

「人とゲームしたの何年ぶりだろ」

 学校ではボッチの陰キャだから、家に誰かを招いたのも久しく無い。ゲームを片付けテレビと電気を消して、ベッドに潜り込んだ。もういつからボッチだったか、とかよく覚えてない気がする、完全に一人ってわけじゃない、クラスカースト上位からいじられはする。でも、友達と呼べるようなつはいない、慕ってる先輩も、慕ってくる後輩もいない。

「……やっぱ少し寂しいな」

 青春を謳歌してる奴らと比べたら、俺の人生はあまりに地味過ぎる。絵を描いてた頃は、もっとマシだった気がするけど、心の平穏の方が今では大事だ。青春なんて大人の懐古趣味が生み出した言葉であって、俺ら学生には関係ない。関係、ない、よな? あぁ関係ない。

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猫人

はじめまして、猫人と申します。映画鑑賞、小説を書く事、絵を描く事、ゲームするのが好きです。見たり読んだりするのはオカルト関連ですが、執筆するのはSFと言うなんとも不思議な事がよく起こっています。ダークだったり、毒のある作品が大好きです。

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