あまりに疲れがたまっていたのか、それとも起きる気がまるでなかったのか、どちらにせよ目を覚ました時には既に昼の十二時を過ぎていた。久々にこんなに寝た気がする、そういや今日は幸が起こしてこなかったな、アイツも疲れて寝てたんだろうか。
「見に行ってみるか」
あくびをしつつ自室から出て廊下を歩く、ふとコウと書かれたドアプレートのかかっている部屋を見つける。暫く考え込んだ後、軽くドアをノックしてみた。
「はーい」
幸が部屋から出てくる、絵でも描いてたのか、服には絵の具がべったりとついていた。
「おはよう、あさ、いや、昼からせいが出るな」
欠伸を噛み殺しつつ俺がそういうと、少しでも上手くなりたいから、と眩しい笑顔を向けてくる。昨夜は青春なんて、と思っていたが、今こいつは青春真っただ中かもしれない。少し首を傾けて幸越しに部屋を覗き込む、見た感じ必要最低限の家具が置かれているだけで、女子って感じの部屋とは程遠い気がする。
「今、なんか失礼なこと考えなかった?」
じろりと幸が俺を睨んでくる、いやぁ何も、と視線を逸らすとぐっと両頬を掴まれ、本当にぃ? と睨み上げてくる。近い、顔が近い、なんというか、コイツにはいつか人との距離感ってのをきちんと教えとかないとダメな気がしてきた。
「ホントだから、離せよ」
ならよし! と漸く解放された。今日もどこか行く? とまた目を輝かせている。映画のリベンジもいいけど、さすがに連日どこかに行ってると、財布の中身が心配になってくる。ここら辺周辺で金をかけず何かできないか、俺が考え込んでいると幸が顔を覗き込んできた。市の中心部からは少し外れてるし、かと言って田舎ってわけでもないし、どうしようか。
「お前は行きたいとことかないの?」
考えても思いつかず、半ば諦めて幸に聞いてみた。幸は腕を組んで考え込んだ後、夏らしいことしたいな! なんて言ってくる。夏らしいことと言えば、キャンプとか海水浴とか、マリンスポーツ辺りか? キャンプは場所を予約しなきゃいけないし、ここからだと結構遠いんだよな……、海水浴ってなると海に行くのか、リア充やらが多そうで嫌だな。
「家で遊ぶのはなしか」
外に出ない理由ばかり探してしまう俺に、幸は首を振って、折角の夏休みなんだよ!? と詰め寄ってきた。じゃあ、プールにでも行くか? と妥協案を提案する。
「海はダメなの?」
どこかしょんぼりと聞いてくる幸に、駄目ってか嫌だな、と苦笑しながら返した。海を見るだけもダメ? と食い下がってくる幸に、どんだけ海行きたいんだよ、と呆れる。
「一回くらい見たいじゃん」
ね? お願い! と両手を合わせる幸を見て、頭をガシガシ掻いてから、分かったよ……とため息交じりに返すと、ピョンピョンとその場で飛び跳ねている。
「迷子にだけはなるなよ」
今すぐにでもどこかに行きそうな幸を見て、思わず苦笑してしまった。