アナタの忘れ物は夢ですか? 18

 最寄り駅まで歩いて行って、海の近くの駅まで電車で移動する。テンション高めに話しかけてくる幸に対し、俺は、あぁ、だの、そうだな、だのと、どこかテンション低めに返していた。漸く目的の駅に着いた時には、かなりぐったりしていた。

「ここから暫く歩いたら海だな」

 少し海のにおいがするね! とこっちを見て笑う幸に、そうだな、とぐったりしながら答える。足取り軽く歩く幸と、重い脚を引きずるように歩く俺は、本当に対照的な性格をしていると思う。夏、一番近づきたくない場所、ナンバーワンの海にまさか来るなんてな。

「あ! あの青いの、そう?!」

 少し先にある海を指さす幸に、そうだな、あれが海、とまたため息混じりに返す。どうしたの? 元気ないね、と俺の顔を覗き込んでくる幸に、そりゃ元気も出ないさ、と苦笑する。

「やっぱり嫌だった?」

 またしょんぼりしだした幸に、俺の事は気にしなくていいから、と頭をポンとたたく。普通気にするよ、とさっきまでの勢いはどこへやら、ずぅんと重い空気をまとわせる幸に、ほら海、着いたぞ、なんて言いつつ前を指さした。

「ホント?!」

 白い砂浜に青い海と青い空、そして人、人、人、と相変わらず夏の海はにぎわっている。今にも駆け出しそうな幸の腕を引くと、不思議そうな顔をして見つめ返してきた。

「ここら辺の海の家近くにいるから、あんまり遠く行くんじゃないぞ?」

 子供に言い聞かすように念を押すと、幸は目をキラキラさせてこくこくと首を縦に振る。よし、じゃあ、行ってこい、ぱっと俺が腕を離すと、勢いよく駆け出していった。海の家そばの日陰に入ると、なんとなくハラハラしながら幸を目で追う。

「そういえば、海に来たのも久々だな」

 あれは何年前だっただろうか、指折り数えていると片手では足りなかった。小さい頃は両親に色々連れて行ってもらっていた気がする、俺がでかくなるにつれて家族三人で出かけることもなくなって、最終的には一人で色々出かけていた。

「まぁこの年で家族で旅行とかってのもないな」

 誘える友達とかがいれば、もっと外にも出たかもしれないが、悲しいことに居ないもんだから仕方ない。小学校が人生のピークで、後はずっと右肩下がり、なんでこうなった、と思わずにはいられない。俺が変わったというよりは、周りが変わってったんだけどな。

「学校始まりだしたら、幸はどうすんだろ」

 漫画とかアニメとかの昔仲良かった幼馴染、みたいな関係性になりそうな気もするんだよな。でもあの感じだと、普通に俺に話しかけてきそうだ、そうなると幸も孤立したりしないか? いや、でも、別に俺はいじめられてるわけじゃないし、ただ友達いないだけだし?

「仲間はずれがいじめなら、俺もいじめられてんのかな」

 いじめ? 聞き慣れた声がして顔を上げる。見れば幸が不思議そうな顔をして立っている、もういいのか? と聞くと、やっぱり一人じゃつまんなくて、しょんぼりしながらそう返された。そう言われても困る、俺はインドア派で、そもそも海に来るような奴じゃない。

「帰りどっか寄るか? そろそろ昼飯時だし」

 ここでは食べないの? と聞いてくる幸に、少し声のボリュームを落とし、こういうとこの飯ってあんま、な、と辺りを見回しながら答える。そうかな? とキョトンとしているのを見て、少し呆れながら、そうなの、と返し幸の手を引いた。

 海の近くのレストランに入ると、キョロキョロと辺りを見回す。値段も味もいい感じ、ってレビューにあったから来たが、やっぱり賑わってるな……。

「まぁ人がいないのも不安だけど」

 店員に案内された席に座ると、早速メニューを見てみる。海の近くとあって海鮮系のパスタだったりピザだったりが多い。パラパラとメニューをめくって、一通り見終わってから、結局一番人気のランチセットに決めた。幸の方を見ると、メニューとにらめっこしている。

「別に急いでないから、ゆっくり決めてもいいぞ」

 俺がそう声をかけると顔を上げ、どれもおいしそうで……、と照れたように笑っている。数分後、少しだけ小さめのペスカトーレに決めたみたいだった。店員を呼び注文し終えると、窓一面に見える海をぼうっと眺める。

「初めての海はどうだった?」

 海を眺めながらふと聞いてみると、幸は、楽しかったよ! でもちょっと暑すぎた、とどこかしょんぼりとした返事が来た。まぁな、この頃暑いからな、と苦笑しながら振り返ると、海から俺に視線を移し、ニッコリと笑いながら頷いた。

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猫人

はじめまして、猫人と申します。映画鑑賞、小説を書く事、絵を描く事、ゲームするのが好きです。見たり読んだりするのはオカルト関連ですが、執筆するのはSFと言うなんとも不思議な事がよく起こっています。ダークだったり、毒のある作品が大好きです。

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