ガタゴトと揺れる電車の中、ふと肩に何か当たり見ると、すぅすぅと幸が寝息を立てていた。よほど疲れたんだろう、肩を揺すっても起きそうにない。仕方なくそのまま寝かせてやることにする。それにしても、ここまで家でダラダラしない夏休みも初めてかもしれない。基本夏休みギリギリまで課題ためて……、あ、忘れてた、そうだよ、課題、まるでやってないわ。結構多かったよな、最後までためてやったら、一週間は潰れるかもしれない。
「どうすっかな」
簡単なやつからやってくか、同じ夏休みでも幸と俺とじゃ違うんだったな。学力も同じとなると、手伝ってもらったとしても、あまり意味はなさそうだし、仕方ない一人で頑張るしかない。呑気に寝息を立てる幸の隣で、深く重いため息が口からもれた。
最寄り駅に着いて幸を叩き起こすと、まだ日が高い中肌を焼かれながら歩く。海に比べるとここら辺はかなり暑い、うんざりしながら暫く歩いて、ようやく家に着いた。鍵を開けドアを開くと早速リビングへと歩いていく。
「今冷房入れる」
エアコンのリモコンを手に取り早速冷房をつけ、飲み物を取りにキッチンに行く。冷蔵庫を開けジュースの入ったペットボトルを二本と、冷凍庫からアイスを二つ取り出した。
「はい」
ジュースとアイスを幸に手渡し、テレビの前に置かれたソファーに座る。早速テレビをつけると、夏の特番が流れ出した。はぁ、疲れた、内容が頭に入ってこない。ぼうっとテレビを眺めていると、次第に瞼が重くなってきた。なんとかアイスを食べ終えると、ソファーに横になる。少しずつテレビの音が遠くなっていく、ぐるぐると考え事をしているうちにやがて意識を手放した。
節々の痛みで目を覚ました。大きく伸びをして、ゆっくり起き上がると、キョロキョロと辺りを見回す。リビングには誰もいないみたいだ、ソファーから立ち上がり、窓際によってカーテンを開けると、もう外はすっかり暗くなっている。
「アイツ、どこ行ったんだ?」
リビングから出て廊下を歩く、階段を上がり二階に着くと、コウと書かれたドアプレートを見つめた後、数回ドアをノックした。はぁい、とどこか眠そうな声が聞こえ、ドアが開いた。幸がひょっこりと顔を出し、どうかした? と聞いてきた。
「あ、いや何も、また絵描いてたのか」
絵の具で汚れた袖を指しながら聞くと、欠伸を噛み殺しながらこくんと頷いた。ホントよくそんなに毎日描けるな、と感心しながら言うと、えへへ、と相変わらず眠そうに笑っている。
「じゃあ、夕飯の時間にはあの二人帰ってくるから、また後で」
そう言って手をヒラヒラ振って自室へと向かう。自室へと戻って来ると、机の上に置かれた山のような課題を見てため息をつく。えぇっと? 簡単そうなのは……、課題の山を崩して一つ一つ並べていく。手っ取り早く終わりそうなものだけ選んで、後は元通り山のように積み上げる。机の前に座りペン立てからシャーペンを取ると、早速課題に取り掛かった。