アナタの忘れ物は夢ですか? 24

 いったん荷物を家に置いて、薄暗くなってきた道を歩いていく。会場が近いのかだんだんと辺りが賑やかになっていった。はぐれないよう、念のため手を繋いだまま会場に来ると、花火を見に来た人らで会場は賑わっている。というより、もはやごった返している。

「はぐれるなよ?」

 今からでも人ごみに紛れそうな幸を振り返り、なんとか出店の方まで歩いていくと、少し人混みがましになってきた。祭りならではの食べ物なんかを頼み、少し人混みから離れた場所で食べていると、聞いたことのある音の後、爆音とともに夏の夜空に花が咲く。

「ちょっと見づらいね」

 花火が木の陰に隠れるようにして欠けている、とはいえここからでも十分見えるといえば見える。人ごみに戻るか、ここで見るか、暫く考え込んだ後、結局ここから花火を見ようと提案する。少し残念そうに笑う幸を見て、ここで待ってようか? と聞いてみた。

「え、うーん、どうしよう」

 幸はひっきりなしに上がる花火と、俺の顔を見比べた後、すとんと俺のそばに腰掛けた。

「いいのか?」

 この位置だと木に隠れて見えないぞ? と念押しすると、どこで見るかより、誰と見るかじゃない? なんて幸は照れたように笑っている。いや、そう言う問題か? ……まぁ見たいって言ってた本人がそう言うならいいか、そう納得するとぼうっと花火を見上げる。黒い夜空に色とりどりの花火を見ていると、この一瞬一瞬がすごく大切なもののように思えてくる。写真に撮ったり、動画を撮ったり、絵に描いたりするのも、こういう気持ちからなんだろうか? 前、幸に言われたことを思い出した。見てくれる誰かがいて、初めて創作は報われる、もしかしたら、作者のエゴなんかじゃなくて、その時々に感じた思いを誰かと分かち合うことで、初めて作品として成り立つのかもしれない。

「また、来年も一緒に見れたらいいね」

 次第に終わりに近づき、夜空を埋める花火を見ながら、ふと幸がそんなことを呟いた。暫く黙り込んだ後、あぁ、絶対にな、と同じように花火を見上げながら返すと、ひと際大きい花火が夜空に打ちあがった。

 ある程度出店を回ってから、次第に静かになっていく道を歩いていく。さすがに色々回ったせいか幸も俺も大分疲れて、帰りは殆ど話さなかった。クタクタになって辿り着いた我が家の前では、不安げな顔をして両親が俺たちを迎えた。

「二人ともどうしたの?」

 と聞いてからふと思い出した、そう言えばどこに出かけるか、何時に戻るかなんて言ってもないし、連絡さえしてなかった。それなら珍しく早く帰ってきた二人が、こんな時間まで家にいないのを心配するのも当たり前だと思った。

「連絡しなかった俺が悪かったよ」

 ここは素直に謝っといたほうが後々楽だ、深々と頭を下げると二人は顔を見合わせ、溜息をついてから家の中へと招き入れた。出店で散々食べたから夜ご飯はいらない、と伝えて一通りやることをやってから、自室に戻りベッドにダイブする。

「あー疲れた」

 ベッドに深く体が沈み込んでいく感覚に、どこまでも落ちていくような錯覚を覚えつつ、次第に歩み寄ってくる睡魔にあらがうことなく、やがて意識を手放した。

 目の前に白い紙が置かれている、俺の手にはクレヨンが握られていて、ぼうっと白い紙がクレヨンで汚れていくのを見つめる。

 数枚そうやって何かを描いた後、クレヨンはやがて鉛筆になり、何を描いているか分からなかったのが、次第に何かの形を成して描かれていく。それは人だったり生き物だったり、風景だった。

 鉛筆から絵筆に持ち替え、思い思いに色を塗っていく。完成した絵をぼうっと見ていると、ふと目の前に誰か立っている。

 顔を上げると、見慣れた自分の姿があった。どこか辛そうな顔をして、俺の手から紙の束を取り上げる。そこで視線が入れ替わった、中学生くらいの俺が、呆然としているなか、俺の手には自分の絵が握られている。一枚、一枚、大きかった画用紙を小さくなるまで破り捨てていく。

「……」

 何か、俺に向かって小さい頃の俺が言っている。声はひどく不明瞭で聞き取れない。

「駄目だ、誰よりも上手くないと、誰かに認められないと、こんなものに意味はない」

 俺ははっきりとした声で、小さい頃の俺に言い聞かすように、ただ淡々と絵を破り捨てていった。

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猫人

はじめまして、猫人と申します。映画鑑賞、小説を書く事、絵を描く事、ゲームするのが好きです。見たり読んだりするのはオカルト関連ですが、執筆するのはSFと言うなんとも不思議な事がよく起こっています。ダークだったり、毒のある作品が大好きです。

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