アナタの忘れ物は夢ですか? 26

 下書きと線画を終え、あぁでもない、こうでもない、と言い合いながら色を塗っていく。漸く絵が描き終わったころには、カーテンの隙間から夕陽が差し込んでいた。

「つっかれた」

 久々に絵を描いたからか、変な風に肩が凝った。それにしても……、出来上がった絵を見て、悪くはない、な、なんて感想をもらした。じっと絵を見つめていた幸が顔を上げ、だよね? 私も楽しかった! とニコニコと笑っている。

「でもまぁ、なんか色々とバラバラだな」

 俺の絵と幸の絵はクオリティーとか抜きにしても、雰囲気も何もかも真逆に思える。別に悪いことじゃないんだが、これを一人の奴が描いたって言われたら、きっと精神状態を心配されてしまうだろう。まぁ合作なんだから当然だ。別々の絵を一つに合わせるのが合作だと思うし、まぁなんというかここまで真逆だと、一枚の絵として逆に面白いかもしれない。

「まぁ描いてるうちに、どんどん俺の描くところが減っていったのには驚いたが」

 元々幸はのびのびと絵を描くタイプだから、俺への配慮とかそういうのは無かったんだろう、結局俺も幸の描くところに侵食したし、綺麗に二つの絵が分かれているわけじゃない。それぞれ好き勝手に描いた割には、いい作品になった。

「やっぱり誰かと何かするって楽しいよね!」

 ニコニコと笑いながら俺を見てくる、一人よりは断然なと思わず笑い返していた。それにもし自分ひとりだったら、こんな絵も描けなかったし、それよりもまず絵を描こうとすら思わなかっただろう。久々に絵を描いて楽しい、なんて感情が自分にあるのが結構意外だ。

「仕事じゃないんだから、趣味は楽しくやりたいもんね。ねぇ、また、一緒に描いてくれる?」

 どこか不安げに俺を見上げてくる。気が向いたらな、幸のまっすぐな目から少し目をそらす。今日がたまたま上手くいっただけで、次は上手くいかないかもしれない、幸が言うように確かに趣味なんだから楽しめばいいとは思うが、次は楽しめないかもしれない、脳内に悪いイメージばかりがどんどん浮かんでくる。

「また怖い顔してる、そんなに嫌?」

 幸の一言にふと我に返る。頭の中の不安を追い払うように左右に頭を振り、幸の目をまっすぐに見つめ返すと、分かった、またいつかな、と笑う。不安げだった顔を明るくして、俺に向けていた視線を絵に向け、ニコニコとそれは嬉しそうに笑っている。

「流石にこれは壁に貼らないよな?」

 二人分の絵が描かれたその紙は、ぱっと見でもそれなりに大きく見える。え! 飾らないの? としょんぼりとされても、これだけの絵を飾れる余裕なんてあっただろうか? まぁ好きにすればいい、俺は引き取らないから、と無責任なことを言う。

「じゃあ私の部屋に飾るね! 初めての合作だもん、大事にしたいし」

 そう言うと早速絵を飾りに自室へと向かったようだ、一人残された俺はぐったりとソファーに体を埋める。あれだけ嫌っていた絵も、誰かと描く分にはあまり気にならなかった、それどころか結構楽しかったとすら思えた。もしかしたら、自分ひとりじゃなければ、幸がいれば大丈夫なんじゃないだろうか、俺もまた絵を描けるんじゃないか、そんな淡い期待を抱いてしまう。

「やっぱり疲れた?」

 声をかけられ顔を上げると、少し心配そうに俺を見ている。まぁ、かなりな、と返すとごろりとソファーに横になる。少し寝るわ、おやすみ、幸の返事を待たず目を閉じると次第に意識が薄れだす。眠りに落ちる瞬間、小さな声でおやすみ、と聞こえた気がした。

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猫人

はじめまして、猫人と申します。映画鑑賞、小説を書く事、絵を描く事、ゲームするのが好きです。見たり読んだりするのはオカルト関連ですが、執筆するのはSFと言うなんとも不思議な事がよく起こっています。ダークだったり、毒のある作品が大好きです。

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