ゆっくりと起き上がると、まだ夢の中にいるんじゃないかと不安になり、頬をつねると小さくうめいた。夢じゃない、少なくとも今は、現実だ。でもやっぱりどこか不安で、俺は慌てて部屋から出ると、幸の部屋のドアを乱暴に叩いた。
「もう、なに?」
どこか眠たげな幸を見て、ほっと息をつく。悪い、起こしたか? 今更幸を気遣うような言葉をかけると、うん、起こされたね、とにやりと笑っている。
「今日は何する?」
もちろんゆっくりしてもいいし、どこかに出かけてもいいよ、ニコニコと笑いながら聞かれ、俺はしばらく考え込む。夏らしいことはあらかたやってるし、見たい映画も見に行った、夏休み一週間目で早くも俺のしたいことは、殆どやりつくしている。
「お前は何がしたい?」
じゃあ、また公園に行かない? 俺は頭の片隅で夢の事を思い出しつつ、暫く頷くかどうか迷った後溜息と共に頷いた。じゃあ、また後でね! 自室へ戻ろうとする俺の背後から、幸の元気な声が聞こえて思わず苦笑する。
夢の中で歩いていた道を、今度は幸と一緒に歩いていく。公園に入る瞬間、妙な不安感に襲われ一瞬立ち止まると、幸が不思議そうな顔で俺を見上げてきた。なんでもない、そう言って笑うと、のんびりとした足取りで公園内を歩いていく。
「あの人、今日はいないんだね」
少し疲れてベンチに座った時、ふと幸がそんなことを呟いた。あの人がよく絵を描いていたベンチの下には、小さな草花が日の光を受けて咲き誇っている。ふと彼が何を描いていたのか、何を見ていたのかが気になって、彼がよく絵を描いていたあの場所に座ってみる。
真新しい何かがある訳でもない、何かを感じ取った訳でもない。
でも
「なぁ、幸、家帰ったら、また一緒に絵、描こう」
長年抱いていた悩みも、長年抱えていた嫌な思い出も、すべて、ここに置いていこうと思う。
「いいの?! 無理してないよね?」
だって、今まで忘れていた夢が、俺を追いかけてきたんだから。