家に着いて自室へと向かう。自室に着くと鞄を投げて、クローゼットから私服を取り出し、制服から私服へと着替えていく。貯金箱から財布に数枚の札を入れると、家の鍵と財布とスマホを持って自室から出て玄関へと向かった。持ち物を確認してから家から出ていく。
約束の時間まではまだあるが、もし時間に遅れたらまずい、学校から家までの距離はそうでもないけど急いだほうがいいかもしれない。なるべく早足でゲーセンへと向かっていると、途中私服姿の菅井さんと出会った。前を歩く菅井さんに声をかけようか迷っていると、前の信号が青になり菅井さんの姿が人ごみに消えていく。まぁ、また直ぐ会えるだろうと思い直し、目的地であるゲーセンまで急いでいった。
遅い、てっきり前を歩いてたからもう着いてると思ったんだけど、僕の方が早くゲーセンへと辿り着いていた。約束の時間を三十分も過ぎていたから、何かあったんじゃないかと心配になってきた、もしかして途中事故や事件に巻き込まれたとか? 嫌な想像ばかりが頭の中を埋め尽くしていく。こんな事なら連絡先くらい聞いておくんだった。
「だから! さっきからしつこいんだよ!」
ゲーセンの騒々しい音や声に紛れて、菅井さんの声が聞こえた気がした。数人の男性の声も聞こえてきた気がする、嫌な予感がして声のした方へ向かう。クレーンゲームの陰に隠れるようにして顔を出すと、菅井さんが数人の男性に囲まれてしまっていた。
ガラの悪そうな男性に囲まれているのを見て思わず足がすくんでしまう、今まさにクラスメイトが絡まれてるのに怖気づいて、ただこうやって見ていることしかできない。他のお客さんも素通りしたり、陰から見ているだけで、助けようという気は更々ないみたいだった。こういう時自分の心の弱さが本当に嫌になる、少しでも勇気があれば助けられるのに、ふと菅井さんの目が僕の方を見た。いや、菅井さんは、確かに僕を見ていた。助けを求める心の声が聞こえて、僕は強く唇を嚙むとスマホを取り出す。クレーンゲームの陰から出て、大きな声で男達に警察を呼ぶと脅しをかける、ヘラヘラと笑っている男達を見て溜息をつくと、110番を押しスピーカーモードにして警察に電話をかけようとする。
「ちょっと、何やってるんですか?!」
僕が発信ボタンを押そうとした時、店員がちょうど通りかかった。ガタイのいい男性店員を見て男達は逃げ出していく。菅井さんと僕は顔を見合わせると小さく笑った。
「ごめん、直ぐに助けに行けなくて」
ゲーセンから出て暫く歩いているとき、居ても立っても居られなくて頭を下げた。結局助けてくれたじゃん、だからいいよ、なんて言ってどこか遠くを見ている菅井さんに、僕はもう一度頭を下げる。
「そんなに謝んなくていいから、こっちこそごめんな、結局遊べなかったし」
『せっかく一緒に遊べると思ったのに、こんなことになるなんてなぁ……』
僕以上にしょんぼりしている菅井さんに、じゃ、じゃあ、うちで遊ばない? と提案してみる。え、だって前は……、と目を見開いてるのを見て、菅井さんさえよければ、だけど、と慌てて付け足していく。
「まぁそこまで言うなら仕方ないか」
ニヤニヤと笑った後ハッとした顔をして、てかさ、則人、ちゃんと奈央って呼んでよ、とムッとしだした。え、でも、と僕が食い下がろうとすると、じゃあウチも佐竹って呼ぶよ? と言われもごもごと口ごもった後、じゃあ、な、奈央、さん、と小さな声で呼んだ。