初めて友達を、しかも女の子を家に呼ぶと思うと変に緊張してしまう。家の鍵を開け奈央さんを家へと招き入れ、一旦リビングで待ってもらうように言う。さっさと自室へと向かうと軽く掃除した後、人付き合いに関する本をベッドの下にしまい込んだ。
「後は大丈夫、だよね?」
ぐるりと部屋を見回してから小さく頷き、自室のドアを閉め足早にリビングへ向かおうとしていると、母さんと奈央さんの声が聞こえ慌ててリビングに入っていく。息を切らしながらリビングに入ると、僕の話で盛り上がっているようだった。
「あ、終わった? 今ちょうど則人のお母さん帰ってきて、ちょっと話してたわ」
『へぇ、あの則人が、意外にねぇ』
キッと母さんを睨みつけていると、奈央さんにそんな目で見ない! と怒られてしまう。なるべく自然に僕から目をそらしている母さんを見て、なにか寂しいものを感じながら奈央さんへと視線を移した。掃除、終わったから、とだけ言うと自室へと向かう。
「いや人とゲームするのホント久々だわ、小学生以来かも」
『どんなゲームがあんのかなー、てか二人でできるゲームなんてもってるのか?』
自室のドアを開けると奈央さんを部屋に招き、キョロキョロと部屋を見回しているのを見て、何か見せられないものがあるんじゃないかと冷や冷やする。暫く部屋を見回した後、じゃ、ゲームするか! と僕を振り返った。僕は頷くと、早速テレビの前に座りテレビとゲーム機の電源を入れると、コントローラーの片方を奈央さんに渡した。
「へぇ、対戦ゲームとかやるんだ、手加減は無しな?」
『オンラインで対戦とかしてんのかな? 昔このゲーム結構やり込んだわ』
早速ゲームを始めようとしている奈央さんを見て、僕はしばらく考え込んだ後、僕のこの厄介な能力について打ち明けることにした。ゲームの説明書を読んでいる奈央さんの肩をたたき、僕を見たところでおずおずとあの事について切り出す。
「人の、心の声が聞こえる? それ、どういうことだよ?」
『則人ってそういうタイプのキャラだっけ?』
心の声に合わせて僕が話すと、奈央さんは驚いたように目を見開いた。気付いた時にはずっと人の心の声が聞こえていたこと、だけどそれはその人が僕を見ている間だけだということ、この力のせいで今までずっと人目を避けて生きてきたことを話した。
手が震える、怖い、ようやく仲良くなってきたのに、それもこれも自分のせいでその関係も壊れるのが、でもなによりも、奈央さんに嫌われるのが怖い。
「……ウチはどうすればいい? どうしてほしい?」
心の声と声が重なって聞こえる、僕はまだ視線を落としたまま、こんな僕でもいいなら、友達になってほしい、と小さな声ででもはっきりと呟いた。奈央さんは暫く考え込んでいるのか、僕を見るのをやめて黙り込み始める。僕はただ奈央さんが話し始めるまで待ち続ける。
「随分、アレだな、めんどくさい能力だな」
僕が視線を上げると奈央さんは僕を真っすぐ見つめ苦笑している。奈央さんの心の声は僕を非難するものじゃなくて、心配したり気遣ったりするものばかりだ。ぼたりと涙が目からこぼれ落ちる、次から次へとこぼれ落ちる涙を見て、奈央さんは心配そうに僕を見た。
「泣くほど辛かったのは分かったから、いい加減泣き止め、な?」
ゲームするんだろー? 歪む視界の中、奈央さんが心配そうに僕を見ている。さっきの話を聞いてもまだ僕を見てくれている、それが嬉しくて、嬉しくて、そして本当に有難くて涙が止まらない。まだ小さかったころ、これが当たり前だと思って、色んな人に打ち明けたらみんな僕を見なくなった。見ていたとしても、悪意ある言葉ばかりかけられた。誰だって心の声なんか聞かれたくないんだ、本心を隠そうとしている人ならなおさら。
それなのに、奈央さんはこの力を受け入れてくれた、僕を見てくれるどころか、優しい言葉までかけてくれる。今までずっと一人だったし、これからも一人で生きていくんだと思っていた、でもやっと僕のことを分かってくれる人に出会えた。
「ほら、いつまでも泣いてんじゃねぇよ。これじゃなんの為にお前んち来たんだか……」
そうだね、ごめん、なんて言って涙を拭う。暫く荒くなった息を整えると、持っていたコントローラーを握り直すと、使い慣れているキャラクターを選び、ルールだったりステージだったりを決めていく。手加減はなしでな、と念を押され苦笑しながら頷いた。