高校の同窓会の連絡が来て、久々に地元に帰ることになった。列車に揺られ居眠りしているうちに、聞き慣れた地名が聞こえ慌てて列車を降りる。懐かしい風景の中歩いていると、ふと真新しい居酒屋が出来ているのに気付く。どうやら同窓会はここでやるみたいだった。はっきり言って高校時代あまりいい思い出がない、でもこの仕事を選んだのも高校時代のある出来事からだ。もう既に賑わっている店内に入ると、どこか懐かしい顔ぶれの中、一人ぽつんとチューハイを飲んでいるアイツを見つけ、他の奴らへの挨拶もそこそこに歩いていく。落ち着いた茶髪に、隠れるようにしてつけたピアス、間違いない。
「久しぶり、奈央」
奈央は俺の顔を見て、どなたですか? と不思議そうな顔をする。
「いや、連絡とり合ってんじゃんか、忘れた?」
がっくりと項垂れていると、冗談冗談、久しぶり、則人、と笑っている。
「にしてもまさか、お前が同窓会に来てるとはな」
それはこっちの台詞だから、なんてニヤニヤ笑っている奈央の隣に座る。高校時代お互いボッチ同士仲良くなったかと思えば、早々に引っ越すもんだから驚いた。あれから数年が経って奈央は社会人、俺は大学生、とそれぞれ別の道を歩いていた。
「学科、なんだっけ?」
ふと奈央がそんなことを聞いてくる、心理、とだけ言うと店員を呼んだ。
「生ビール一つ、あと枝豆も」
まさかあの則人が、心理学を選ぶとはねぇ、サークルは? もしかしてテニサー? なんてニヤけてくる奈央にチョップをかます。なんだっていいだろ、とぶっきらぼうに返すと、奈央は口をとがらせている。
「そっちこそ、社会人になってどうよ? ……彼氏とか出来た?」
内心冷や汗をかきながら聞いてみると、彼氏ぃ? 気になる? 気になっちゃう感じ? と相変わらずニヤニヤしている。俺は目をそらしながら、そりゃあ気になるわ、と小さく呟いた。
「いてほしい? いないでほしい?」
ニヤニヤしてるだろう奈央から目を背けたまま、いないでほしい、と更に小さな声で呟いた。突然黙り込んだのを不思議に思い、奈央の方を振り返ると何故か顔を真っ赤にしている。そんな奈央を見て、俺まで顔が熱くなる。きたばかりのビールをあおる俺と、チューハイを飲み干した奈央は、お互い黙り込んだまま次々にジョッキとグラスをあけていく。
「飲みすぎだろ」
おたがいさま、そう言ってほぼ同時にジョッキとグラスをテーブルに置いた。置き場のないほど置かれたジョッキとグラスを見て、少しだけ酔いがさめていく。同窓会の幹事に酒代を余分に渡し逃げるようにして二人で店から出ていった。
「で、結局彼氏いんの?」
前をふらふらと歩く奈央が振り向く、どっちでしょー? なんて言ってヘラヘラ笑っている。
「あーあ、前みたいに、お前の心の声が聞こえたらなー」
なんて冗談を言って笑っていると、聞こえるか聞こえないかの声で、結局永遠の片思いかぁ、なんて聞こえてきた。誰に片思いしてんの? と聞くと、奈央は驚いたように目を見開いている。ツカツカと俺に歩み寄ると、じっと俺を睨み上げる。
「さて、誰だと思う?」
『相変わらずにぶすぎ』
奈央の声が二重に聞こえる。
「当ててみてよ」
『幼稚園のころから、今までずっと』
そこで奈央は俺から目を逸らした、気付けば俺は思わずその腕を掴んでいた。
「おい、こっち見ろよ、頼むから」
俺の目を見て、話を聞かせてくれ。