solitario: chapter1.The Fall of the Princess 「6.The Fall of the Princess」

午前7時半

「うう…さっむ…。レイラ…寒いんだけど…」

エルヴィーラは眠い目をゆっくりと開き、レイラの事を呼ぶと自分の置かれている状況に仰天した。
数時間前自分はベットの上で寝ていたはずなのに、今は外で椅子に手首と足首をロープできつく拘束され、身動きが取れない状態になっていた。

それどころか、その光景を何もおかしくないと言わんばかりの態度で突っ立っているレイラと、エルヴィーラの事をまるでその辺に落ちてるゴミを見るような冷たい目で見るMの姿が目に入る。

「ちょ…!なんであんたが…!!!!レイラ!黙って見てないで助けなさいよ!!!」

ガシャガシャと音を立てながら冷たい手錠を如何にして外そうかとエルヴィーラは暴れるが、逆にきつくなっていき、縛られている手首と足首の痛みが強くなっていくだけだった。

「あーあ…そんな動いたら綺麗な手首と脚に傷付くぞ。なあ、レイラ?」

「ええ、そうですね」

エルヴィーラの言葉にMは冷たくそう言うと、レイラも同じように冷たく返答する。

「…う…うそ…。レイラ…あんたも関係してんの…?…どうなのよ!?」

「…。」

「なんで黙ってるのよ…!そんな…じゃあ私は誰を信用すればいいの!?言いなさいよっ…!レイラ…!レイラぁっ…!!!」

助けを求める子犬のような表情を浮かべながらエルヴィーラはレイラに訴えかけるが、レイラは何も返答しなかった。
それを見て、権力と引き換えに気に入らない仲間を容赦なく捨てていったエルヴィーラが一番信用していた「唯一の人物」を一瞬で失った絶望感に強く押しつぶされ、涙ながらに叫ぶ。

「あーっと…二人の感動話の途中で悪いがエルヴィーラ、簡単なクイズだ。「信頼できる人を失った今、お前が一番売り出せるものってなんだと思う?」…ほら、答えてみろよ」

「…?はあ?何わけわかんないこと言って…」

Mはエルヴィーラにクイズを出すが、答えられなかったエルヴィーラに左頬目掛けて自身の右脚を勢いよく振った。
顔に当たった強い衝撃と、とてつもない力に椅子の右側の片足が浮き、バランスを崩すと逆の方の顔を地面に強く打ち付けた。

「ぐっ…!」

右頬に走る強い衝撃にエルヴィーラは必死に耐えるが、舌に感じる強烈な痛みと口の中に血の味が水に落ちる一滴のインクのように広がり始める。

「残念、正解は「顔」だよ。王子様がシンデレラに惹かれたのも同じ理由だ。シンデレラは金が無くても顔が良かったから王子様の目に止まった。でも、お前は顔が良いし金もある。だがな、金があっても「魅了」するものが無かったら誰も寄りつかねぇ。それでも寄ってくる奴は金目当てとしか思えねぇし、人が落とした砂糖に群がってる蟻と同じだ。…というわけで、お前をさらに魅力のないシンデレラに変えてやるか」

Mはそんなこともお構いなしに表情を一切変えずエルヴィーラに答えを言うと、彼女の顔に向けてお仕置きをしようとした。

「待ってっ!!!!…悪かったわ…。私が悪かった…。だからお願い…許して…。これ以上…蹴らないで…」

何をされるかすぐに分かったエルヴィーラは大声で泣きながらそう言った。

「ほう…。けどよ?そう言うのは簡単だよな?お前もこの世界の仕組みを知っているんならちゃんと行動で示してもらわないとな?…あっ…そういえば、私の仕事道具が誰かさんのせいで粉々になっちまったんだよなー?」

「良いわよ!なんでも!新しいの準備するわ!あなたにはベントレーとかいいんじゃない?!」

「あ?あんな重いのいらねぇよ」

「そ…!それなら…!」

「後でいいわ…んなの。それと、今日からお前の会社で働いてやるわ」

エルヴィーラは必死に言うが、Mに軽くスルーされてしまう。
しかし、Mの突然の発言にエルヴィーラとレイラは驚いた。

「は…?!…そ…そう…!これからよろしく…」

エルヴィーラはMに反論と理由を聞こうと思ったが、聞いたところで答えはどうなるかすぐに予想できた為、仕方なく承諾するしかなかった。

「あ?何お前が偉そうな口きいてるんだ?お前は「部下」なんだよ」

「え…?どういう…」

「…はあ…。お前、本当に裏のしくみ分かってないんだな…。簡単だよ。親が何かでやらかした時、親の立場はすぐに落ちて子か他者に全ての力が移るんだよ。分かるか?お前は私に誠意ってものを見せてくれるんだろ?なら、お前の「力」も全部私にくれよ。違うか?」

Mは簡単に裏社会の事について説明した。
分からない人の為に簡単に説明すると、会社の社長が何か不祥事等を起こせば、社長は辞任し副社長、又はそれに近しい人に社長の権利が移るという事と同じだ。
一つ違うとすれば生きてるか死ぬかの違いだけだ。

裏社会の説明にきょとんとしているエルヴィーラの顔に、「裏社会に片足突っ込んでいるのにルールを一つも知らないでよく生きていけたな…」と思いながらMは再びお仕置きしようとした。

「わ…分かったわ!それでいいわよ!!!」

エルヴィーラは再びやられると思い、必死にそう返答した。
M自身その場のノリで滅茶苦茶な事言ったな…と思ったが、エルヴィーラは自分より下になり、憂さ晴らしも出来たのでとりあえずいいやと思った。


それから数日後、Mの自宅にエルヴィーラから誠意と謝罪という理由でブラウン系のイタリア高級自動車メーカー「マセラティ ギブリ」が積載車に載せられてきた。
何でもいいと言ったが、彼女の性格上スーパーカーにいったりしなかった事はとりあえず褒めようと心の中で思う。
車が届き、自宅の一人で住むにしては比較的広大な敷地内へ車を動かそうと運転席へ乗り込むと助手席に白の封筒が置いてあるのに気付き、Mは中を確認した。

「…ふっ。あいつらしいな」

封筒の中に入っていた紙には殴り書きで「Piacere di conoscerti d’ora in poi. A coloro che erano lupi solitari.」と書かれており、Mはクスッと笑った。

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柏木桜

悪そうな女の子(たまに違う)、車高低い車描いたり小説書いたりする人です。 どうもよろしくです。 たまにそれ以外もやるかもです。

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