不思議図書館奪還の為、各々が割り振られた行動に出た。
むつぎとゼルルはユリィの案内で、昔ユリィが、みるとイミアの修業に使っていた家へ移動し、色々と説明を受ける。
「リビングにテラス、キッチン、向かいは書庫。奥にトイレや洗濯と洗面所とお風呂、向かいに寝室。一番奥は私の部屋だから、今は開かないようにしてあるわ。」
さっさと説明したユリィは、2人に部屋をチェックするように言い、自分は生活用品を手配するからとリビングへ行ってしまう。
むつぎが寝室をチェックすると、ベッドとタンスと椅子と机、ちょっとした本棚しかない簡素な部屋だった。もう一つある寝室も同じようだ。
「こんな簡素な部屋で、みるやイミアは暮らしていたのか?」
【…お兄さま、部屋をよーくご覧くださいませ。】
ゼルルが言うので、むつぎはもう一度部屋を見渡す。
よくよく見ると、シーツや枕、椅子は新品のものが置かれていた。
【ちゃんと「痕跡」は取ってあるようですわ。】
なるほど、と頷く、むつぎ。確かに彼女達が修業していた痕跡はほぼ残っていない。
「…そうだな。」
ちょっと寂しそうな、むつぎに、ゼルルはボソリと呟く。
【お兄さま、ワタクシがやられた男なのですが…】
「タダの男じゃないって事か…?」
【はい…。それも図書館の防衛機能を突破し、ワタクシに奇襲をかけてきました。申し訳ございません…ワタクシ…。】
「いいんだ、ゼルル。もし俺が1人でも負けていたかも知れない。」
【あと…お兄さまはアレが何かわかりまして?ワタクシには見抜けませんでしたわ。】
「俺もわからない。イミアも種族は知らないようだったし、みるとレフィールとユリィ様も触れてなかったな。」
【人間なのか、人間の形をした何かなのか…。】
「そうだな…。あと、ユリィ様に書庫と庭の使用許可を貰おう。俺にはまだ圧倒的に能力が足りない。」
【それならワタクシも一緒に。ワタクシもお返しはしたいですから。】
「ああ、ありがとう、ゼルル。」
2人は小指と翼を絡めて、指きりのようにキュッと握った。
・
…その頃、イミアとサラミはノーヴが働いていた「速達屋」を訪れて話を聞いていた。
ノーヴは本当にただのバイトで、速達が出来れば種族や身の上を問わない条件で雇ったので、本人の素性はわからない、と言われガッカリする2人。
「何でそんな怪しいヤツを雇うんだよ!」
「あたしの「運び屋」もだけど、出来る人が限られる仕事だから…。速達は時間との勝負だし。」
「そんなの、おかしいだろ。」
ぶーぶーと拗ねたような顔のサラミと、それを宥めるイミアは、仕方なく速達屋を後にする。
「どーする?」
「しょうがないから、一度先生達のところに戻ろう。」
「…わかった。」
ちょっとまだ納得していないサラミだが、戻る事には反対はせず、イミアと歩き出した。
・
…そして、不思議図書館世界の元管理者・レインのところへ向かう、みるとレフィール。その前にカルムの元へ行き、事の次第を説明する。
「不思議図書館世界の権限が謎の男とウサギ耳の少女に…。」
「それで直接レインのところに行こうと思って。」
カルムは少し考え込むと、みるとレフィールに聞いた。
「一応聞いておくが、みるの星の力は使わないんだな?」
「うーん…あっちの事情がわからないし、支払える対価が無いから…。」
「図書館をこじ開けるにしても、出来るだけ穏便にした方が良いだろう。」
「はぁ…あまり気は進まないし、愚弟が何か知っているとは思えんが。」
「知っていたとして、あのレインがすぐに教えてくれると思う?」
「…うん、無いな!!」
みるの問いに、カルムは笑顔で答える。
そこそこの交流しかない、みるとレフィールでも知っているレインの性格。
『聞かれなかったから、言わなかった。』
不思議図書館世界の管理権限をユリィにする時も、カルムとレフィール、レフィールの逃避後もカルムが突発的に訪問することで、不思議図書館の事を隅々まで教えた…カルム曰く「吐かせた」…のだから。主に禁書関係で。
「じゃあ行ってきますかー。」
「ああ。」
「みる、私も…」
「カルムは師匠達や図書館で、何かあったら対応しながら連絡して。」
「どうして!どうしてなんだ!みる〜!!」
泣きながら、みるにしがみつくカルムに、みるは「はーなーしーてー!」と言いながらズルズル引きずる。レフィールはそれを黙って、少しの間だけ見ていた。
カルムを振り払い、みるはレフィールと今度こそレインの家へと向かう。
・
レインの家はカルムの屋敷とは違い、『外見は』雑草や蔦が伸び放題の錆びれた家。しかし家の奥にある地下への階段を下れば…まるで迷宮か何かのように広い地下施設が広がっている。
書庫、魔術用の実験室、魔法や魔術に関する植物の保管場所など…もっと細かく探せば生物の実験場所もありそうだが、流石に「やばそう」とわかるような部屋には入室できないように魔術が施されていた。そして教えられて覚えた通りの廊下を歩き、1つの扉を開くと…
「おや、いらっしゃい。みる、レフィール。」
くつろげるような客室に、待っていましたと言わんばかりにソファーに座っている眼鏡の男性がいる。
彼が、カルムの弟で、魔術師の【レイン】。知的そうでスマートな眼鏡をかけ、白衣を着た長髪の男性。瞳の色と髪色はカルムとそっくりだ。
「話はだいたい聞いていますよ。どうぞお座り下さい。」
「どこから聞いたんだか…。」
ニコニコしながら着席を促すレインに対し、どこか胡散臭そうにしながら座る、みるとレフィール。
「それで…」
「不思議図書館世界の管理者権限なら、私は全く知りませんでしたよ。」
「…あのさぁ、私達が直接来た意味ある?」
「ありますよ。私に直接聞けたという意味が。」
やはりニコニコしながら答えるレインに、みるは深いため息をつく。
「…んじゃあ、不思議図書館の管理者権限を取り戻す方法、あるいは突入した時のデメリットは?」
「それは一度経験した貴女が一番よく知っているのではありませんか?みる。」
問いかけの回答に、またも深いため息をつく、みる。みるは一度むつぎが支配する不思議図書館で戦闘したことがある。
「相変わらず、使えないねぇ。レインは。」
「私は愚兄とは違って、ホイホイ流されませんので。」
「あー、ハイハイ。お邪魔して悪かったね。」
立ち上がり、その場を去ろうとする、みる。それに付いていこうとするレフィールをレインが呼び止めた。
「・・・レフィール。」
「なんだ。」
「・・・【星】をおとすのは、なんだと思いますか?」
「…?」
「太陽を隠すのは、月。月を照らすのは、太陽。なら、星は?」
「…知らん。オレはもう行く。」
付き合うのも面倒だと言わんばかりに部屋を出ていくレフィール。その背中に、レインは呟いた。
「・・・星をおとすのも、星なのですよ。」
その呟きも、そう言ったレインの表情も、レフィールには聞こえず、見ないまま部屋の扉は閉じられたのだった。
終わる。or 関連本の追求。