「私は「エーナ」。「スー」の双子の姉で、かつて…みるの仕え魔になろうとした精霊です。」
意思の強い表情で言う白いウサギの少女…エーナの言葉に、困惑を隠せないユリィ。
「どういうことなの…?みるは確か精霊はいなくなったって…。」
ユリィの言葉に、耳をしゅんと垂らしながら話すエーナ。
「…確かにあの時、私もスーも、みるの仕え魔になろうとしました。でも邪魔が入って、私達は仕え魔の儀式に行けず、以降みるに会う機会を失ったのです。」
「どうして?みるは待ち続けていたらしいのに。」
「・・・様が私とスーを捕らえて…」
エーナの最初の言葉が、ユリィにはうまく聞き取れない。それに気付いたエーナは、もっと落ち込んでしまった。
「うう…ユメリィ様…いえ、ユリドール様にも伝えられないのですね…。みるの力で神霊になったユリドール様なら、伝えられると思ったのに…。」
「…つまり、誰かが2人を捕らえて仕え魔になるのを妨害したのね?それで?」
「はい、それから私とスーは引き離され、スーは・・・様にそそのかされたのです。「みるは仕え魔にすると言ったが、真っ赤な嘘だ。現にお前たちは、みるの元に行けないじゃないか。」と。スーは普段はもっと考える子なのですが、その時は全く考えを変えず…それからスーはどんどん・・・様の言いなりになっていって…。私は…それをどうすることもできない程に封じられて…。」
「ふむ…つまり洗脳されているってことね。」
「はい。…みるを最初に気に入ったのも、仕え魔になると言ったのも、スーで…スーはみるを大好きだったのに…。」
ー
『ねぇエーナ!2人でミィの仕え魔になろうよ!』
『スー、仕え魔は遊びじゃないのですよ?それにミィは女神様になる方…大変な思いをすることになります。』
『じゃあ、エーナはミィがキライなの?』
『そんなことはありません!だってこんなに魔力の波長が合う方は初めてですし、それに何だか放っておけなくて…。』
『ほーら、ボクと同じ。やっぱりボク達は双子なんだよね。』
『スー…。』
『明日、一緒に儀式に行こうよ。それともボクだけミィの仕え魔になっちゃってもいい?』
『だ、ダメです!ズルいです!』
『あははっ、最初からそう言えばいいのに…エーナったら。』
ー
エーナは約束が狂う前の、スーとの会話を[追憶]して、ぽろぽろと大粒の涙を流す。
そんなエーナに、ため息をつくユリィ。
(ああ…この子達もそうなのね。お節介焼きで、泣き虫で、無茶をする…)
ユリィの目に、レフィールと会えないと泣いていた時の、みるとエーナの姿が重なって見えた気がした。
「…泣いていないで、私にできることを教えて?その為に呼んだのでしょう?」
「うう…はいっ…」
目を少し拭いたエーナは、改めてユリィに向き合って告げる。
「…まず、みるに、不思議図書館の襲撃の時に思ったことをもう一度、聞いてください。そしてそれがどんなことであっても、信じてください。それを元に調べれば、解決策がわかるはずです。そして…スーを取り戻す策は…コレです!」
そう言ってエーナは自分の頭の、白いウサギ耳を指差した。
「しかしどちらも相手を弱らせる必要があります。多分、辛い戦いになると思いますが…。」
「そこは、みる達次第でしょうね。ところで、このことをみるに伝えても?」
「お願いします。以前私も意識深くで、みると話しましたが、伝えられませんでした。ですが、・・・様がどこまで見聞きしているのかがわからないので…。」
「わかったわ。こういう時に、あの子の力を持っていると便利なのよね…皮肉にも。」
「どうか…よろしくお願いしますっ、ユリドール様!」
「そんなに堅苦しくしなくてもいいのよ。」
「いえ、私のこれは性格ですので…基本的に誰にでも様付けで呼んで、丁寧な口調になってしまうのです。」
「みるは?」
「あ…う…えっと…はぅぅ…」
ちょっとからかってみたユリィだが、エーナは顔を真っ赤にして俯いてしまった。どうやらとても親しい相手には、様が外れるらしい。慌てて恥ずかしがって顔を真っ赤にするところは、みるに似ている。
「エーナ、貴女もタイミングを伺って、隙ができたら逃げてこちらへ来るのよ?ひとりで向かっていっちゃダメ。わかった?」
「はいっ!ありがとうございます!ユリドール様。」
パッと笑顔になって嬉しそうにお礼を言うところも(素直な時の)みるに似ているな…。そう思いながら、時間が来たのか、ユリィの意識はゆっくりと失われていった。
・
ガバっとユリィが気がついて身体を起こすと、そこはいつもお茶をする、みるの家の庭のテーブルとイスの上。隅っこに置かれている鉢植えには、何もない。
(きっと、みんなお友達を助けたかったのね…。)
マンドレイクも、精霊の庭の精霊や妖精達も、みんな運命を狂わせられた双子の精霊姉妹を心配し、何とかしようとした。だからユリィはエーナに会えたのだろう。精霊の庭に干渉できる者は、余程力が強く、精霊や妖精達から信頼されていなければならない。
つまり、エーナ達を捕らえた者は精霊達から信頼されていないと読める。
しかし精霊のエーナ達が必要だった。なぜエーナ達なのか…そして片割れのスーを操っているのか…。図書館がほしいなら、管理者権限を奪える力量があるのだから、わざわざそんなことをしなくとも、むつぎとゼルルだけの時を狙って追い出せば良いはず。
「まさか…図書館は本当の狙いじゃない…!?」
ーみるに、不思議図書館の襲撃の時に思ったことをもう一度、聞いてください。そしてそれがどんなことであっても、信じてください。ー
ユリィの脳内に、エーナが言った言葉が呼び起される。
「図書館…イミアの友人…ウサギ…仕え魔………みる…!?」
何かに気付いたユリィは青ざめた表情をし、だが深呼吸をして落ち着くまで待ち、みるの家の玄関のインターホンを鳴らした。
終わる。or 関連本の追求。