不思議図書館・追「6:精霊の庭」(後編)

「私は「エーナ」。「スー」の双子の姉で、かつて…みるの仕え魔になろうとした精霊です。」

意思の強い表情で言う白いウサギの少女…エーナの言葉に、困惑を隠せないユリィ。

「どういうことなの…?みるは確か精霊はいなくなったって…。」

ユリィの言葉に、耳をしゅんと垂らしながら話すエーナ。

「…確かにあの時、私もスーも、みるの仕え魔になろうとしました。でも邪魔が入って、私達は仕え魔の儀式に行けず、以降みるに会う機会を失ったのです。」

「どうして?みるは待ち続けていたらしいのに。」

「・・・様が私とスーを捕らえて…」

エーナの最初の言葉が、ユリィにはうまく聞き取れない。それに気付いたエーナは、もっと落ち込んでしまった。

「うう…ユメリィ様…いえ、ユリドール様にも伝えられないのですね…。みるの力で神霊になったユリドール様なら、伝えられると思ったのに…。」

「…つまり、誰かが2人を捕らえて仕え魔になるのを妨害したのね?それで?」

「はい、それから私とスーは引き離され、スーは・・・様にそそのかされたのです。「みるは仕え魔にすると言ったが、真っ赤な嘘だ。現にお前たちは、みるの元に行けないじゃないか。」と。スーは普段はもっと考える子なのですが、その時は全く考えを変えず…それからスーはどんどん・・・様の言いなりになっていって…。私は…それをどうすることもできない程に封じられて…。」

「ふむ…つまり洗脳されているってことね。」

「はい。…みるを最初に気に入ったのも、仕え魔になると言ったのも、スーで…スーはみるを大好きだったのに…。」

『ねぇエーナ!2人でミィの仕え魔になろうよ!』

『スー、仕え魔は遊びじゃないのですよ?それにミィは女神様になる方…大変な思いをすることになります。』

『じゃあ、エーナはミィがキライなの?』

『そんなことはありません!だってこんなに魔力の波長が合う方は初めてですし、それに何だか放っておけなくて…。』

『ほーら、ボクと同じ。やっぱりボク達は双子なんだよね。』

『スー…。』

『明日、一緒に儀式に行こうよ。それともボクだけミィの仕え魔になっちゃってもいい?』

『だ、ダメです!ズルいです!』

『あははっ、最初からそう言えばいいのに…エーナったら。』

エーナは約束が狂う前の、スーとの会話を[追憶]して、ぽろぽろと大粒の涙を流す。

そんなエーナに、ため息をつくユリィ。

(ああ…この子達もそうなのね。お節介焼きで、泣き虫で、無茶をする…)

ユリィの目に、レフィールと会えないと泣いていた時の、みるとエーナの姿が重なって見えた気がした。

「…泣いていないで、私にできることを教えて?その為に呼んだのでしょう?」

「うう…はいっ…」

目を少し拭いたエーナは、改めてユリィに向き合って告げる。

「…まず、みるに、不思議図書館の襲撃の時に思ったことをもう一度、聞いてください。そしてそれがどんなことであっても、信じてください。それを元に調べれば、解決策がわかるはずです。そして…スーを取り戻す策は…コレです!」

そう言ってエーナは自分の頭の、白いウサギ耳を指差した。

「しかしどちらも相手を弱らせる必要があります。多分、辛い戦いになると思いますが…。」

「そこは、みる達次第でしょうね。ところで、このことをみるに伝えても?」

「お願いします。以前私も意識深くで、みると話しましたが、伝えられませんでした。ですが、・・・様がどこまで見聞きしているのかがわからないので…。」

「わかったわ。こういう時に、あの子の力を持っていると便利なのよね…皮肉にも。」

「どうか…よろしくお願いしますっ、ユリドール様!」

「そんなに堅苦しくしなくてもいいのよ。」

「いえ、私のこれは性格ですので…基本的に誰にでも様付けで呼んで、丁寧な口調になってしまうのです。」

「みるは?」

「あ…う…えっと…はぅぅ…」

ちょっとからかってみたユリィだが、エーナは顔を真っ赤にして俯いてしまった。どうやらとても親しい相手には、様が外れるらしい。慌てて恥ずかしがって顔を真っ赤にするところは、みるに似ている。

「エーナ、貴女もタイミングを伺って、隙ができたら逃げてこちらへ来るのよ?ひとりで向かっていっちゃダメ。わかった?」

「はいっ!ありがとうございます!ユリドール様。」

パッと笑顔になって嬉しそうにお礼を言うところも(素直な時の)みるに似ているな…。そう思いながら、時間が来たのか、ユリィの意識はゆっくりと失われていった。

ガバっとユリィが気がついて身体を起こすと、そこはいつもお茶をする、みるの家の庭のテーブルとイスの上。隅っこに置かれている鉢植えには、何もない。

(きっと、みんなお友達を助けたかったのね…。)

マンドレイクも、精霊の庭の精霊や妖精達も、みんな運命を狂わせられた双子の精霊姉妹を心配し、何とかしようとした。だからユリィはエーナに会えたのだろう。精霊の庭に干渉できる者は、余程力が強く、精霊や妖精達から信頼されていなければならない。

つまり、エーナ達を捕らえた者は精霊達から信頼されていないと読める。

しかし精霊のエーナ達が必要だった。なぜエーナ達なのか…そして片割れのスーを操っているのか…。図書館がほしいなら、管理者権限を奪える力量があるのだから、わざわざそんなことをしなくとも、むつぎとゼルルだけの時を狙って追い出せば良いはず。

「まさか…図書館は本当の狙いじゃない…!?」

ーみるに、不思議図書館の襲撃の時に思ったことをもう一度、聞いてください。そしてそれがどんなことであっても、信じてください。ー

ユリィの脳内に、エーナが言った言葉が呼び起される。

「図書館…イミアの友人…ウサギ…仕え魔………みる…!?」

何かに気付いたユリィは青ざめた表情をし、だが深呼吸をして落ち着くまで待ち、みるの家の玄関のインターホンを鳴らした。

終わる。or 関連本の追求。

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メルン

小説を書くのが好きな、アニメ・ゲーム・読書が趣味の人です! 目についたものや不思議なことを小説にしたり、絵にも挑戦したいです。 ほのぼの、ほんわか、ちょっと謎な話もあるかも…?

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