時刻は午後九時半、こんな時間にもかかわらず教室側の窓際からは光が見える。
今時、どこの学校でもこの時間になると大体は消灯しているはずなのに。
忘れ物? 部活のやり残し? それとも居残り授業?
校庭から見て左の窓際は二年四組の教室だ。
くすくす、と笑い声が聞こえてくる。
「あのさあ、誰のせいでこんなことになったのよ。意味わかんない」
「三咲(みさき)が世界史の教科書忘れるから……ついてきたこっちの身にもなって」
二人の女子生徒が机の中身を確認している。
長髪の彼女は腕を組み、イライラしているのがわかる。
三咲と呼ばれた三つ編みが特徴の子は焦りながら探し物をしていた。
やっぱり忘れ物……いやもう少し会話を聞いてみよう。
「あっ、あった! よかった……」
「まったくしょうがないんだから。それにしても……レナの奴遅いね」
「確かに。部活で使った忘れ物取りに行ったきり全然戻ってこないな」
彼女はカバンからスマホを取り出しチャットのアプリを開く。
文には【音楽室に忘れ物したから、すぐ戻るね】と記載されていた。
音楽室は旧校舎にある。
「三咲、行こう。きっと怖くて震えているに違いないわ」
「あっ……ちょっと待ってよ!」
二人は用を済ませここの教室の電気を消しすぐさま、旧校舎へと向かった。
冷たい風がすーっと、廊下に入る。
旧校舎はあいかわらず古い。
壁にはツタが壁にからみついている。
「やっぱり不気味だよね……旧校舎ってさ」
「そう? 私にはちっとも感じないけど。それより今はレナを探すよ」
「祈里(いのり)ぃ……速いって」
床がギシギシと音を鳴らし、二人は少し顔を見合わせる。
「音楽室に来たのはいいけど……楽譜見つけられたのかな?」
「にしてはなかなか、音沙汰がないわね。おーい、レナ! いる?」
祈里は叫ぶが返事が返ってくる気配がない。
ただ音も無くシンと、静まりかえっただけだ。
「レナーっ、いないの? こっちは終わったよ」
「ねえ、なんか足音しない?」
「は? そんなわけないでしょ」
三咲の言う通り、どこかから足音がこっちに向かってくるのを感じる。
最初は強がっていた祈里の顔が急に青ざめる。
「え……レナ?」
二人が振り向いた時、人影が物凄いスピードでこっちに向かってきた。
『きゃああああ!』
二人が叫ぶと人影は笑い出した。
それも少女の声で。
「やったあ。二人ともビビりじゃん」
「……え?」
ショートヘアの背の高い少女はニヤニヤと二人を見ていた。
それに気がついた祈里はキレだす。
「レナ……あんたねえ!」
「ごめんって。反応が面白いからさ」
「ひどいよ……」
さっきまでの恐怖心がウソのように晴れたかと思いきや。
また、【声】がした。
『いいじゃん。俺もまぜてよ』
どこからか、低い声がして三人はぴたっと止まる。
レナも気が付いていた。
「だ、誰……?」
なんと目の前では、信じられない出来事が起こっており彼女たちは目を疑った。