僕は残りの片付けを終わらせると、大きく背伸びをした。
(結構な体力を使ったな……)
あたりには勿論、誰もいない。
冷たい風が僕の体に触れる。
「とりあえず、ここを出よう。いつまでいても退屈だからね」
すると背後から強い視線を感じる。
なんだろう、胸騒ぎがする。
僕はそれを無視してドアを開ける。
そのとき。
「……はあ、本気(マジ)?」
どうやら閉じ込められたようだ。
いたずらにしては酷すぎる。
僕は彼らに、やられたと舌打ちする。
今さら気がつくとは、なんて哀れだろうか。
すると背後から何か違和感を感じた。
……寒い。
「誰? 僕の肩を触ったのは」
『俺だよ』
低い声がして振り向くと、そこには大学生くらいの男子がいた。
ボロボロの制服(カーディガン風ブレザー)を着ている。
銀髪に血のような赤い瞳は鋭い目つきで僕をじっと見ていた。
「……もしかして、君がこんなことを?」
『まあな。俺は生徒たちからは【影斗さん】って呼ばれている』
なんとなく嫌な予感はしていたが彼が生きているとは思えなかった。
その姿はまるで吸血鬼ドラキュラのよう。
僕はとりあえず話してみることにした。
「……えっと、はじめまして。僕は夜鎖タツキ、高校二年生。その……影斗さんは幽霊なの?」
『みたいなものだな。俺は作られた【怪異】そのものだ』
一応説明するけど、僕は霊感が強くてなんでも視えてしまう能力がある。
でも、それは人間と同じように接するだけで別に怖がったりはしない。
『お前を呪うかと思ったが……怖くはないのか?』
「うん、僕は霊感強いし。慣れているから」
影斗さんは瞳を輝かせる。
(あれ? 僕、もしかして変なこと言っちゃった……?)
『タツキは優しいな。こんな怪異に接してくれて。君がはじめてだ』
(しまった……調子にのって機嫌良くしすぎたみたいだ……。いつもの癖じゃん)
普通なら怖くて逃げるのが当たり前、でも僕はそんなやつではないから余計に好かれやすい。
僕は今すべきことを思い出して、彼に伝える。
「あのさ、ここから脱出したいんだけど……」
『それはできないな、お前に興味を持ってしまったから』
まずい、交渉失敗だけど……ここで諦める僕じゃない。
きっと何か方法はあるはずだ。
「そこをなんとか、お願いだよ」
影斗さんは一瞬険しい表情になった。
そして、鋭い目つきで言った。
『ならば、ここで【行方不明になった生徒】を助けてこい。そしたら出してやろう』
「……わかった。生徒を見つければいいんだね?」
影斗さんは強くうなずく。
『行方不明になった生徒の安否まではあまり期待しないほうがいい』
「すると……神隠しってこと?」
『まあ、あながち間違ってはいないな』
【行方不明】という単語から推測するに生きている可能性は低い。
だが、【神隠し】ならどこかで迷い込んでいる可能性があるから助けられそうだ。
「もしかして、影斗さんって生徒の居場所が分かってたりして……」
『それはない。自ら俺を恐れ消えてしまったからな』
失敗は許されない、緊張がはしる。
すると、この旧校舎がなんだか普通ではないことに僕は気がつく。
「空間密室……?」