無事に脱出することができた僕たちは廊下を歩いている。
ゆらめく青白い人魂が視えるが影斗さんいわく、襲ってはこないらしい。
まりあは僕のジャケットの裾をつかみ、小刻みに震えていた。
無理もない、音楽室に一人で閉じ込められたと考えると不安になるのもわかる。
だから僕は誰であれ見過ごすことはできないのだ。
「あの……タツキさん。怖くないんですか?」
「心配してくれてありがとう。僕は、ホラーも楽しめるタイプだから」
「やっぱりかっこいい……」
逆に考えてこんな可愛らしい女の子がぽつんといたら可哀想でしかたがない。
まりあだって好きでここにいるわけではない。
きっと何かの理由で閉じ込められたんだ。
……下手に深堀りするのはやめておこう。
保健室の看板が見えてきたところで僕たちは少し休む。
「どのくらい歩いたんだろうな……運動にはなったけど」
「つかれますね……わたしどうしたら」
「大丈夫だよ。何があっても僕が守るから」
僕がニコリとほほ笑むとまりあは安心した顔になる。
後輩だからって別に礼儀よくしろとかそういうものではない、これは当たり前のことだ。
しかし、先ほどから影斗さんの気配が全くしない。
身体も楽になっている。
「彼がいない……神出鬼没だ。まったく」
「どうしたんでしょう」
その時だった。
どこからか笑い声とともに何かが近づく気配を感じる。
青白い人魂も消えており、いっきにこの場が静かになり不気味に思える。
見えないところから、ささやきとともに僕らに呼びかける。
「な、なんなの……いや」
「ぐっ……別の場所に逃げるぞ」
まりあは強くうなずき僕の手をつなぎ走りだした。
声や穢れはここをひこうとはしないつもりだ。
「きゃああああああっ」
「はあっ、はあっ……あそこに!」
僕らは空いていた教室に逃げ込みドアを閉めた。
声は廊下まで響き、気配が遠くなるのを感じた。
数分後、僕らは嫌な気配がいなくなったことを察し、安心して大きなため息をついた。
あたりを見回すとそこは本棚や椅子、テーブルが置いてある。
「ここは、図書室だな。大丈夫か、まりあ」
「は、はい……。なんとか」
あの教室と比べたらこっちはまだ綺麗なほうだ。
静かな空間で二人、さっさと脱出したいがまた襲われる可能性もある。
「ここには何か出そうな感じはしないけど……」
「あの……タツキさん、後ろ」
「え?」
まりあが僕の肩を強く叩いて背後を指差す。
僕はそのとおりに見てみると……。