ゆらりと大きな人影が僕らを見つめていた。
まりあが思わず悲鳴をあげる。
「きゃああああああっ……!」
「待ってくれ!」
だけど僕は気がついた。
人影の正体がわかったのだ。
制服は白シャツに赤いネクタイ。
身長がバスケットボール選手と同じくらいの高さ。
一人の青年だった。
「俺は虎神院万里(とらがみいん ばんり)。気がついたらここにいた。お前らは?」
「僕は夜鎖タツキ」
「わ、わたしは……白百合まりあです」
万里と呼ばれた青年は僕らをジッとにらみつけた。
警戒されているのかどうか、よくわからなかった。
見た目は不良系のよう。
鋭い目つきがその証拠だった。
「二人はいったい何をしに来た?」
「実は……」
僕は彼に今まで体験したことを話す。
万里は黙って聞いて疑いもせず僕らをじっと見る。
まりあは怖がって僕の背後に隠れた。
「なるほどな。俺は最初疑ったが……どうやら同じだな」
「同じ?」
「閉じ込められたことに変わりはないだろう。まったく、どうしろと……」
万里は文句を言っているがこの状況で冷静でいられるのが不思議だった。
僕は彼に言う。
「あの、虎神院さんはこの状況怖くないの?」
「万里でいい。幽霊らしきものを視過ぎて慣れっこだ。あと俺は一応先輩だからな?」
「タツキさんと同い年かと思っていました……」
万里は先輩……つまり三年生だ。
どういう経緯でこの旧校舎に閉じ込められたのか。
僕はまだいいとしても、二人は行方不明になった生徒だ。
もうそろそろ仕掛けてもいいのかもしれない。
僕は覚悟を決め二人に話す。
「まりあ、万里先輩。二人は[本当]に神隠しにあったりしてない?」
その発言に驚いたのか両者は黙りこむ。
僕が知りたいのは生きているかを知りたいだけ。
「いいえ。わたしは……生きています。閉じ込められたのは確かです」
「俺も、ずっと助けを求めていた。お前が来てくれるまではな」
(あれ、おかしいな……)
そういえば二人は【行方不明】になったって影斗さん言ってなかった?
だとしたらもう生きてはいないはず……。
嫌な予感と不安が頭によぎって僕は冷や汗をかく。
「タツキさん? どうしました?」
「具合でも悪いのかよ?」
「ううん、大丈夫。なんでもない」
言わぬが花ということだろう。
僕は真実を知りたかったが、あまり深掘りしないようにしよう。
「とにかく僕はここから出るために君らのことを知りたかった。気にしないでくれ」
その時だった。
いつの間にか、図書室のドアに鍵がかかっていた。
しかも今度は何やら文字列のボタンがある。
「また閉じ込められたみたいだ……。まさか」
「おい、タツキ。出られる方法あるのか?」
「わからないけど……とにかくやるしかないよ」
音楽室だって脱出できたのだ。
まりあの力がなければどうしようもなかったが。
だが次は図書室だ、ここでは知識が試される。
「どこかにヒントがあればいいですけど」
「ここを知っているのは万里先輩だけじゃない? 何か知ってる?」
「それが分かれば苦労しない……無理があるだろう」
僕は少しがっかりしたが気を取り直して探索をはじめる。
だが残念なことに本棚には何も無かった。
取り壊しのためにもう掃除したばかりだったことを思い出す。
「でも本が無くても、ヒントはありそうだよね」
「手分けして探しましょう。わたしは左側を」
「じゃあ俺は右側を探すぜ」
僕らは頷き、それぞれの場所でヒント探しをはじめた。