「あのさ。俺の推理だけどよ……これって【ある物語】の意味なんじゃね?」
「物語? おとぎ話とか……」
「確かに。あっ!? 僕も少しわかったかもしれない。怪奇小説がヒントになるね」
「えっ……タツキさん? 怪奇小説とは」
「たしか、海外の名作の一部で、超現象や怪奇そのものを扱う話なんだ。十八世紀後半のイギリスでは『ゴシック・ロマンス』と言われていたらしいよ」
「ちなみに正解は鏡じゃないかな。ひとつだけジャンルが違うよね」
「鏡……ジャンル……?」
僕の発言に万里は強くうなずいた。
けれど、まりあはまだ理解してないらしい。
「用は……あれだ。物語には出てくるけどそこまで重要な物ではないよな」
「うん。残りの三つはそれぞれの物語に出てくる人物を象徴しているんだよね」
「……人物ですか?」
僕は彼女に説明する。
「まりあ。十字架が苦手なものってなーんだ?」
「ええっと……あっ! [吸血鬼]!」
「正解だ。じゃあ、フラスコは何を意味している?」
万里が少し意地悪そうに問いかける。
「ええっと……[フランケンシュタインの怪物]?」
「そうだよ。よくわかったね」
だが、あと一つの[花]が難問だった。
まりあはギブアップになってしまう。
「花は……わかりません。可愛らしいプリンセスのお話しか」
「こいつは人狼だ。[トリカブトの花]っていって狼が嫌いな花なんだぜ」
「本で読んだことがある。その花は魔除けで魔女狩りでは当たり前だったんだ」
「なるほど……あっ⁉ 鏡は【白雪姫】のことですよね?」
「そういうことだよ! あ、紙の裏側に【答えはカタカナで文字を入力しろ】と書いてあるね。任せて」
「まりあには少し難しすぎたか」
顔を真っ赤にして恥ずかしがる彼女を見た僕と万里は少しからかった。
幽霊系がダメだとはわかっていたが、まさかモンスター系でもダメとは知らなかった。
「き、気にしないでください……」
僕は五十音表のボタンを見てカタカナ表記で[カガミ]と入力した。
するといい音がしてドアがかちゃり、と開いた。
「よし、開いた。二人とも行こう」
「おう!」
「……」
まりあが急に黙り込む。
僕は彼女に話しかける。
「どうしたの? 具合悪い?」
「いえ……違います。博識で、すばらしいと思っただけで」
「ゲームで知ったんだ、これくらい楽勝だね」
万里は気にするな、と彼女の肩を優しくたたく。
だが、僕にはまりあの様子がおかしいと感じる場面があった。
瞳の光が見えないのは、なぜ?
万里もそうだ、何かを隠している。
僕は少しイヤな予感を抱きながら、図書室を後にした。
じっと床を見つめると、万里の影がどんどん大きくなっている。
僕は目を疑った。
(さっきから僕は、何を考えているんだ? うん、きっと頭を使い過ぎて疲れたのかもな)
「あの……タツキさんは頼りがいがありますよね。優しくて、わたしを守ってくれて」
「だよな。俺のことなんか怖がりもせずに接してくれるからよ」
僕は、何も言わずにただ歩きだした……。