この花弁は、どこに向かって落ちていくんだろう?
落ちた後は…ただ無残に散るだけなのだろうか…。
「記憶障害?」
「ええ、エマさんは誰のこともわからないんですよ」
「一体どうして?!」
「あの日の事が余程堪えたのでしょう
記憶を取り戻すまで…手伝ってあげてください
わたしも医者ですからサポートしますので
何かあったら、すぐに知らせてください」
病院を出て待合室に座ってる娘のそばへ寄る
俺の娘…エマには記憶がない。
「おじさん…今日からここで暮らすの?」
「元々一緒に暮らしてたんだぞ…」
「そうなの?ねぇ、教えて…どうして私には記憶がないの?」
「それはっ……」
エマが記憶喪失になる前
俺たちは3人で出かけていた。
俺とエマと紬は、エマの七五三を楽しんでいた
「ママ、そんなに写真撮らないでー」
「写真はいっ〜ぱい、撮らないと!まだま撮り足らないんだから
卒業式に入学式に…成人式」
「気が早いってばー」
「飲み物買ってくる」
「お願いねー」
俺が自販機で3人分の飲み物を買っている時に事件はおきた。
仮面を被った集団が憂さ晴らしに人を刺し暴れまわってる
悲鳴が聴こえて2人の元へ向かったが遅かった……
狙われて紬は命を落とした。
「いやああああ」
「大丈夫っ…強いのよ…ママ…」
「やだぁ…やだぁ」
「きいてエマ…あなたの名前の由来はね…」
紬はエマの名前の由来を教えて笑顔で散っていった。
俺は後悔した
なぜ、あの時…離れてしまったんだろう
助けられなかったんだろうて……
でも、俺以上にエマは心に傷を受け
あの日から過去の事を何一つ覚えていない
俺のことも名も知らないオジサンだと思っている。
ちょっと、つらいけどエマが思い出すまでの辛抱だと思って
また一から教えるつもりだ。
今は、エマの記憶が思い出す切欠を手伝う
「トラウマ?」
「そうだ、エマはトラウマが原因で過去に蓋をしてしまってる」
「私の記憶がないのは…そのせい?」
「ああ、でも大丈夫だ…パパも……オジサンもチカラになるから」
「トラウマってなに?」
「すごく嫌なことだ。思い出したくもない辛いこと
そのトラウマには、本来のエマがいるんだ…
思い出すのは怖いし辛いと思う
ゆっくりでいい、思い出してみないか?ママのこと」
俺は、できるだけ優しく呼びかけてみた。
いまのエマは紬のことも思い出せないと思うが
「私は…名前とオジサンたちの事
思い出したい!」
「エマ!ゆっくりでいいからな?」
キラキラした瞳で何かをしたいと言ったのは
あの日以来か…
そのことも、覚えてはいないだろうが
「気晴らしにテレビでも見るか〜」
「テレビってなに?」
リモコンを手にとりテレビをつけると
2日前の事件現場がいきなり目に映る……
俺は一瞬、頭を抱えたがエマは?
「うわああああああ…ちがうのにして」
「エマ?」
「い、いやあああ……頭痛い…ココずっと見てられない」
案の定、重症化していた。
テレビは消して俺は医者に電話した
「すぐにきたまえ」
何かわかるのだろうか
少し急いで着替えて俺たちは病院に向かう
時間もなくタクシーを呼ぶ
「ありがとうございました」
タクシーから降りると医者が迎えてくれた。
記憶のないエマと対面するのは初めてだ
「やぁ、エマちゃん…そんなに怖がらなくていいよ」
「オジサンも私のこと知っているの?」
「知っているとも!君のお母さんを診たのも私だよ」
「……?」
「そうか、まだ…」
「エマ…まずは名前を変えることから始めよう
この人はせんせい! 俺は…」
「パパ…」
「思い…出したのか?」
「ううん、オジサンが2人になるとややこしいから…」
「そうか…そうだな」
2日ぶりに、娘の口からパパと呼ばれ
嬉しくて涙を流した。
俺たちはまだ、始まったばかりだ…
思い出していこう…7年間の事を
#1 「オジサン誰?」
続く