ノーヴの正体、そしてスーの素性が明らかになってから更に数日後。不思議図書館の玄関前に、みる、イミア、サラミ、ユリィ、レフィールが集合していた。前は無理矢理弾き出されたが、今は玄関前に居る事は出来る。
ついに図書館奪還の為に、ノーヴとスーと戦う事になったのだ。
しかし、正直戦闘は避けたいのがイミアとみるの本音。それは皆承知している。なるべく無駄な争いはしないつもりだ。
ちなみに、むつぎとゼルルは少し遅れるらしい。まだ最終段階まで修業を終えていない為、終わり次第駆けつける予定だ。
【は〜ん…わかりましたわ。絶対に…ぜぇぇぇったいにボコボコにしますわ!!】
ノーヴの正体を伝えた時、むつぎは驚くだけだったが、ゼルルは凄く怒っていたので、何か思うことがあったのだろう。すぐに修業に戻ってしまったので詳しく聞けなかったが、聞かない方が良い、とユリィとレフィールは思った。(その方がノーヴの隙を突ける材料が増えるから。)
「みんな…行くわよ。少しでもマズいと思ったら退避すること。」
「うん。」「「はい。」」「ああ。」
「みる、お願い。」
「任せて。」
各々が自分の武器を手にする中、銀の鎌を持った、みるが玄関の扉を切り裂き、扉は粉々になる。もちろんそうしたのには理由があり、扉には頑丈な結界とバリアの二重防御が施されていたので、みるの鎌で全部切り裂くしかなかったのだ。
大きな音と煙が上がるのに紛れ込んで図書館内に侵入したが、いつもむつぎがいるテーブルがあるフロア一面に、本が沢山浮かんでいる光景が目に見える。
「…ハッハッハ!やっと来たか!イミアとオマケ共!」
2階への階段の一番上で、ノーヴがポーズを取りながら言う。
「ノーヴ!あたし達は戦いに来たわけじゃない!話を聞いて!」
「話ぃ?武器持って話し合いに来るヤツがいるか!」
「そ、それは…!」
「ふーん、だがどうせ武器なんぞ役に立たないぞ。振り回して本をダメにしたら…どうなるかな?」
ノーヴの言葉に全員がたじろぐ。確かに武器を振り回せば、周りに浮かぶ本に当たるかも知れない。しかも図書館の権利がノーヴにある以上、本にいつもの防御魔法が施されている保証は無い。それに、もし禁書の類いが混ざっていたら、もっと大変な事になってしまう。
「人質ならぬ、本質ってか…。」
「うまいこと言うな、猫。どうだ、俺様に手も足も出せまい!ふーん!勝ったな。」
「だったら手も足も出さないわよ!」
みるが魔法陣を展開し、数個の魔力弾をノーヴに向けて放つ。精密操作で本を避けながら、確実にノーヴを狙った…が。
「そうはさせないよ!」
みるの頭上にスーが飛来し、全員が回避した。そのせいで魔力弾はノーヴに届かず消滅し、図書館の床に巨大な穴が空いてしまう。
「スー!」
「ミィのことは知り尽くしてるからね!今度こそ切り刻んであげるよ!」
…状況は、かなり不利になってしまった。固まっていた全員をバラバラにされた上に、イミアはノーヴ、みるはスーを相手にし難い。そうでなくとも本が浮遊しているせいで動き辛いのに。
「(本をどうにかしなければ、援護もままならない…!)」
考え抜いたユリィは、ある事を思いつき、魔法陣を展開しながら、みるに言った。
「みる!後始末は手伝ってもらうわよ!」
「な…」
何の事かと、みるが問う前に、ユリィの魔法陣から黒くて大きな丸いものが現れる。
「神霊術・移る黒御魂!(うつるくろみたま)」
ユリィの呪文を引き金に、黒くて大きな丸いものは、浮遊していた本を次々吸い込み始めた。
「何それ!?ブラックホール!?」
「…無機物の多数転移…マジか。本だけを吸引して、どっかに転移させてやがる。」
流石にスーとノーヴも突然の荒技に驚きを隠せない。
「……なるほど、アレの先は…そうか。」
「レフィだけで納得しないでよー!」
「何だ、説明が必要か?」
「いや、見たまま「本だけ」をどっかに移してる術だと思うけど!「どこに」移してるの!?」
「とりあえず安全な場所だ。心配するな。」
「マジで、どこ!?」
ニヤリと不敵な笑みを浮かべるレフィールに、魔術の用途はわかっても行く先がわからない、みる。
だが、これで障害物はほとんど無くなった。
「ユリィ様ナイス!」
これをチャンスと見たサラミが、猫特有の跳躍力でノーヴとスーを目掛けて跳ぶ。
「行くぞ、ピスティス!」
信頼を意味する名前をサラミが呼ぶと、チョーカーに付いた2本の猫の尻尾のようなファーが両腕に巻きつき、鋭い爪がついたグローブに変化した。
「テイル・クロー!」
ものすごく長い距離の爪の一閃に、ノーヴは避けたが、スーも手袋から鉤爪を出して応戦する。
「薙ぎ払え!メタル・クロー!」
スーの鉤爪はサラミの爪攻撃を強引に撃ち破り、そのままスーとサラミは爪をぶつけ合った。
「ぐっ…お前!みるの仕え魔になりたかったんだろ!?何でこんな事をするんだ!」
「ミィが裏切ったから。ボクは楽しみにしていたのに、ミィが…ミィが悪いんだ!」
「みるが心を開いた「友達」にそんな真似するもんか!みるは、めっちゃ臆病で、いつも誰かと会話した後はすっごい凹むんだ!自分の一言で傷つけちゃったかも〜って。そんなみるが裏切りなんてするワケない!」
「うるさい!ちょっとミィに優しくされただけで友達ヅラするな!ミィの友達はボク…だけだったのに!」
「ああ、そうだよ!みるは心を開いた相手や困ってるヤツには、超甘いんだ!そんな甘々なみるが「友達」って信頼するヤツを裏切るもんか!」
(みる、ノーヴの対応に行っていて良かったわね…。)
スーとサラミは攻撃しながら言い合っているが、傍目(=ユリィ)から聞いたら、みるの良い所自慢大会にしか聞こえない。きっと本人が聞いていたら顔を真っ赤にして、戦闘どころではなくなっていただろう。
その頃みるは、離れた場所でサラミの攻撃を避けて着地したノーヴと対峙していた。
「貴方、悪魔の王子なの?」
「ふーん、よくわかったな。俺様の【格下に力を認識されない能力】で、兄貴達や魔王…俺様の血縁関係以外にはわからないはずなんだが?お前は人間だろ?」
「人間だけど女神の生まれ変わりで、女神の力があるんですぅー!ヤバめ王子がー!」
「女神か。アイツ、何も言ってなかったけど…。」
ノーヴはチラッとスーを見た後、みるに向き合い、どこからか槍を出して、みるに切先を向ける。
「まあいい!女神だろうが何だろうが倒せば問題無いからな!」
槍特有の突きをしてきたノーヴに、みるは大鎌の刃で受け止めた。刃が欠けたりはしないが、やはり何度も受け止めるのは良くない。
(むう…あのレベルの槍の全力は受けづらいな。普通のシールドじゃ壊れるし。)
どうしたものか、と考えながら魔力弾を放つ、みる。だが相手の槍は長く、リーチもあり、弾が大量に蹴散らされてしまう。
(早くは無いけど、遠距離攻撃で錯乱しづらい…。レフィと似たタイプだ!めんどっ!!)
攻略法を考えながらの戦闘は、かなり疲労する。
「もらったぁ!!」
考えているうちにノーヴが魔力弾をさばききって、重い一撃を食らわせに来た。
「…っ…!」
みるは、全力のシールドを出そうとしたが、間に割って入って来た人物によって守られる。
それは大剣を持ったイミア。イミアはその大剣でノーヴの一撃を完全に防いでみせたのだ。
「イミア…!」
「任せてごめんね、みる。…ここからは、あたしがちゃんと向き合うから!」
イミアは両手で大剣を振り、ノーヴの前で構える。そこにもう迷いはなかった。
「イミア…お前、やっぱり裏切ったんだな!」
「あたしはノーヴを裏切ったりしてないよ!一体どうしてこんなことをするの!?ノーヴ!」
「だって…俺様があげたブローチを返してきただろ!?俺様の親愛の証を…やっとできた、外での…わかりあえるヤツだと思ったのに!!」
「ええっ…あのブローチが…。」
「そう、イミア!お前がこんな図書館や、人間で女神なんかに現を抜かすからっ!!」
ノーヴは槍を叩きつけるように何度も何度もイミアの大剣に突きつける。
「俺様だけと話していれば良かったんだ!!俺様にだけ笑っていれば!!」
「ノーヴ…。」
そんなイミアとノーヴの行動を見ていた、みるは思う。
今のノーヴは【あの時】のむつぎ…ベルフェリオによく似ている。ノーヴは…きっとイミアに友達以上の思いを抱いていたのだ。
「こんな…こんなモノがあるから、俺様のイミアが…ーー」
「誰が誰のモノだって?」
防戦一方だったイミアとノーヴの間に、今度は黒い雷が落ち、そこに人影が見える。
【どうやら間に合ったようですわね。】
「そうだな。」
それは、むつぎとゼルルだった。
「むつぎ!ゼルル!」
【ふふふ…まさか図書館を襲ったのが、噂の「放蕩(ほうとう)第三王子」とは…まんまと騙されましたわ。】
ゼルルは早速ノーヴを見て、怒りを込めた言葉を放つ。
「げっ…どうしてそれを…いくら同じ魔界の住人だったと言え、そこまでわかるなんて…。」
【あらまぁ、第三王子ともあろう方が、この「ゼルル・シア・ソヴァンヌ」を知らないとでも?】
「ゼルル・シア・ソヴァンヌ!?あのソヴァンヌ家の公爵令嬢!!?兄貴達の婚約者候補だったのに、全財産を持って消えた深窓の令嬢悪魔が・・・・・魔導書に??」
【その通りですわっ!そして我がお兄様、むつぎ・ベルフェリオ・バアルの2人が、貴方のようなへっぽこに教えて差し上げますわ!本当の悪魔の力というものを!】
終わる。or 関連本の追求。
※「シア」はゼルル達の世界の「上位貴族」の名前に付けるものだと思ってください(オリジナル設定)。