近所の公園近くに森があるのを知ってあたしは、好奇心が抑えられなかった。
そこの奥深くに依頼人の家があると聞いたから。
「なんだかちょーっとだけ不気味だけど、先生のためならこれくらい」
思わず足が動いて走り出していた。
あたしの大好きな人、牧原令菜(まきはられいな)先生は中学の時の担任で恩師。
きっかけは、大好きだった親友が事故で亡くなってからそのショックで学校に行かなくなった。
そんなあたしを心配して話を聞いてくれたこと。
(他にも先生はいたけど……一番話しやすかったな)
優しくて美人で、こんな大人になりたいなと思っていた。
もう誰も失いたくない、だから人のために何かをしたいと思った。
「でも先生がまさかお金持ちだったなんて知らなかったなー」
どんな家か想像しながらこの森の深い道を走り抜ける。
すると、白い光に照らされてあたしは思わず目をつぶった。
ゆっくりと目を開く。
「うわあ! なんて素敵な豪邸なの?」
まるで映画に出てきそうなアンティークな西洋洋館。
庭に生えているバラも、あたしには輝く宝石に見えてきた。
「よーしっ。腕がなるわ!」
だが、右側の壁をよく見ると、ピンポンチャイム式が無いことに気がつく。
仕方がないので大きな声で呼ぶことにした。
「令菜先生ーっ! いませんかーっ?」
あたしはドアの前に来てノックする。
「お邪魔しまーす。ハウスキーパーの朝宮蘭が来ましたよー」
しかし、返事が返ってこない。
するとドアがギーッと勝手に開き耳障りな音がした。
まるで、この家がどうぞと言わんばかりに手招きしているようだ。
「もう……ビックリした。入りますね、お邪魔します」
家の中は真っ暗だった。
あたしはスマホのライトで道を照らし足場をよく見る。
「本当に誰もいないの? あっ、先生はお仕事の可能性もあるか……」
なら仕方ないと納得し持ってきた掃除用具を持つ。
このほうきは、言わばあたしの護身用と言っても過言ではない。
「さあ、この家を綺麗にするよっ」
テンションが上がり、思わずほうきをくるくるとバトンのように振り回す。
あたしが仕事に取り掛かろうとしたその時。
玄関のドアがバタンと大きく閉まり、驚いて飛び上がった。
「きゃっ……⁉ え、なんなの?」
『あら、よく来てくれたのね』
聞き覚えのある優しい声、あたしはそれに気がついた。
「もしかして……先生?」
『そうよ。蘭ちゃんが来てくれて嬉しいわ』
振り向くと赤いスーツ姿の令菜先生が微笑んでいる。
なんだか感情がこみあがってきてあたしは先生に抱きつく。
「先生! 久しぶり! 元気してた?」
『当たり前じゃない。やっと会えたわね』
(どうしよう、今にも泣いちゃいそう)
目頭が熱くなるけどあたしは泣かない。
「……え?」
一瞬にして先生の表情がこわばった。