あたしが階段をのぼると案内してくれるかのようにロウソクの灯りが勝手についた。
「うわぁ……雰囲気が……半端ない」
人気もなく、とても不気味に思えてきた。
「どうしてお祓いとかしなかったんだろ。先生は幽霊とか苦手なのに」
実は、令菜先生はこうみえて怖いモノがダメなタイプ。
お化け屋敷に入るのも苦手だと教えてくれたときはちょっと意外で可愛いかったなと懐かしく思った。
「思い出してきたらなんだかおかしくなってきちゃった」
けれど今はそんな事を言っている場合じゃない。
そんな事を考えているうちに、白いドアを見つけドアノブに手をかける。
どうやら、鍵はかかってないみたいだ。
「ここは……? え? ビリヤード台? ダーツ盤もあるわ」
遊戯室、いわゆる大人の部屋。
きっと先生が暇なときにここで遊んでいたのだろう。
「なにか手がかりがあればいいけど」
ほうきを木刀がわりに持ち込みゆっくりと進む。
すると奥の方に、大きな翡翠(ヒスイ)色の箱らしきものをみつけた。
とても古そうで桜の金伯模様が目立っている。
隣には黄色い御札が貼り付けてあった。
「……いったい、何が入っているんだろ」
蓋のホコリを掃除してから、開けようとしたとき……。
ひらりと御札が床に落ちてあたしは顔を青ざめる。
「やば!……戻しておかないと」
急いで御札を手に取り蓋にはりつけようとした。
その時、大きな音を立てて蓋が勝手に開きだした。
「きゃっ」
足を踏み外し、しりもちをつく。
すると箱の中から両手をだらんとした幽霊のような姿勢で、人影が起き上がる。
黒い漢服姿の青年がじっとあたしのほうをみつめていた。
鋭い目つきが、あたしの視線を逃がさない。
「な、なに? あなたは」
青年は何も応えず突然、あたしにとびかかってきた。
「わっ……!? あぶなっ」
あたしが思わずよけると、青年が舌打ちをしてこっちに来る。
(いったいどうしたら………ん?)
振り返ると、蓋にはりついていた御札が目にはいった。
あたしはふと、ひらめいた。
「あっ!……たしか、多分これで……当たってるはず。すーっ……ええええい!」
あたしは御札を持って彼の顔をめがけて額におしつける。
青年が叫び声をあげ体制を崩しその場に倒れた。
「よかった。…….ええっ⁉」
安心したのも束の間、青年の姿はない。
背後から低い声が聞こえてきた。
『お前か? 俺の眠りを妨げたのは』
振り向くと、その青年があたしを抱きしめていた。