次の部屋へと向かう前にあたしは辺りを見回す。
空気がきれいとはいえない、どんよりとしている。
『そういえば、蘭はここへ何をしに来た?』
「えっとね、ハウスキーパーのバイトでここに来たんだけど……」
今まであたしが体験したことを九龍に話す。
(あれ? 一瞬だけど、九龍の瞳が光ったような……)
『なるほどな。だからそんなに張り切っていたのか』
そう言われてなんだか恥ずかしくなりあたしは赤面した。
あたしは気まずい空気をどうにかしたくて話題を変える。
「それより! ここの部屋にしよ。開いてるね。あはは……ラッキー」
『誤魔化しただろう……』
ドアを開けるとそこには沢山の本棚が置いてあり目の前には机とテーブルが置いてある。
まるで洋画に出てくる場所みたいだ。
「わぁ! 本が沢山ある」
『書斎だな。俺も全てをこうして見るのははじめてだ』
ここならきっと手がかりが見つかること間違いなしだろう。
「色々なジャンルの本があるみたい。ぎっしり詰まっているね」
『畜生……英語や日本語はあまり読めなくてな……』
「え? どこに住んでいたの?」
『上海(シャンハイ)の山奥にいた。いや、あの世のほうが正しいか?』
「あはは……そうなんだ」
とにかくこの感じだと中国語しか読めなさそうだ。
(あれ? 今こうして普通にあたしと話せているけど、日本語はどうやって学んだの……?)
『どうした? 急に黙り込んで』
「ううん! なんでもないわ!」
これ以上、彼の事を考えるのはやめておこう。
なんだか胸騒ぎがしてきた。
「うーん……あっ、机のところにノートがあるわ」
ボロボロのA4サイズのノートを見つけ何が書いてあるのかあたしは気になってしかたがなかった。
すると九龍は左側の方を向いて睨みつけていた。
「どうしたの?」
『……気にするな。何が書いてある?』
あたしはノートを開き、書いてあるページをめくって調べた。
右側の方から文章が続いている。
九龍は日本語が読めないため、あたしが声に出して音読した。
「なになに……」
日記
九月 私の家に親族から贈り物が届いた。それは大きな二つの箱だった。 まさか楽器が送られるなんて夢にも思わなかった。開けたい気持ちはあったが今日も忙しい。次の空いてる日に開けてみよう
十月 やっとこの日は休みが取れて楽しみにしていた贈り物を開けることができる。楽しみで仕方なく開けた。すると驚いたことに中身は空だった。何かの間違いかと思い目を擦ってもう一度調べてみる。やっぱり何も入っていない。ギターかバイオリンが入っていると思ったのにがっかりした
十一月 私は親族に文句を言おうと電話をかけた。すると、なぜか電話の主は警察で、親族が行方不明になっていたことを知り混乱した。何事かと私は尋ねたが、後日また連絡するといい電話を切られてしまった。私はショックで頭がおかしくなり次の日にこの箱を捨てることにした
だが、数時間後、捨てたはずなのに戻ってきてしまった
どうして? なんで捨てたのに戻ってくるの? この箱、やっぱり呪われているんだ。どうしていいか分からなくなった。
十二月 あの人になんて説明したらいいのだろうか。できるならもう交際なんてやめたい、あの人は、箱の中身に高価な物が入ってると信じている。だけど、何も入っていないと知られたらもう終わり。だって……期待して、と言ったのは私だから。でも……箱の中は……××× (文字がかすれていて読めない)
右側のページには、知らない男性が先生と写っている写真があり、それは血にまみれていた。