こんな美しい男性が安らかに眠っているなんて。
叫ぶのを抑えたいが、どうしても落ち着かない。
すると、あたしの声に気がついたのか男性は目を覚ましそっと起き上がった。
鋭い赤い瞳がじっとあたしを見つめる。
「きゃああああっ!? これは違うの! そう……何かの間違い……」
『君が俺を起こしてくれたのか? ああ、怯えないでほしい』
恐ろしく低い声だけど優しい発言にあたしは後ずさる。
「目が……怖い」
『不思議な娘だ。とても純粋な瞳をしている』
(どうしよう……こんなのきいてないよ。あっ!)
持っていたほうきを護身用として強く握りしめる。
「こ、来ないで!」
『落ち着け、君を襲う真似はしない』
調子が今にも狂いそうだ。
もうこうなったらと、深呼吸してあたしは覚悟を決めた。
「やああああああっ!」
ほうきを大きく振りかざすが、彼の姿はいつの間にか消えていた。
「嘘でしょ……?」
突然身体に電流が流れるような痛みが、あたしを襲う。
同時に甘い香りがして目が虚ろになる。
「なんだか眠くなってきた……」
『悪いが俺は君と無駄な争いはしたくない。大人しくしていてほしい』
背後から黒いマントに包み込まれる。
身動きがとれない、完全に袋の中の鼠(ねずみ)だ。
「ひっ……」
『見つけた……運命の娘が』
ひんやりと冷たい感触が、全身に強く響いた。