あたしは急いで階段から降りた。
だって早くあの声を知りたいから。
「はあっ、はあっ……。あっ……見つけた!」
そこにはうずくまっている令菜先生の姿が。
でもなんだか様子がヘンだ。
「令菜先生っ! しっかりしてください、あたし、朝宮蘭です!」
『……? 蘭ちゃん?』
令菜先生がゆっくりと目を覚ます。
今まで隠してきた感情がいっきに爆発し気が付くと、先生に抱きついていた。
「先生……ぐすっ……会いたかったよお」
『あらあら、心配かけてごめんなさいね』
今度こそ、とあたしは願っていた。しかしまた違和感を覚える。
なぜ身体が冷たいのか。
あたしはゆっくりと彼女の顔を見る。
「令菜先生⁉ なんですか……その姿は」
宙に浮いている、切ない顔であたしを見ていた。
『ごめんなさいね。蘭ちゃん……私、実は幽霊になっていたの』
「……そんな」
まだ夢でも見ているのか。
頭が混乱してきた。
「一番信じたくなかった……あの! ど、どうして令菜先生は……そんな姿に?」
『……ごめんなさい、覚えていないわ。けれどずっとこの家に執着していたことは覚えているわ』
あたしの今までの期待が絶望へと変わった。
「どうして……?」
『私ったら馬鹿ね。蘭ちゃんをこんな怖い目にあわせるなんて』
(違うわ! 令菜先生は何も悪くない!)
こんなにもツラそうな先生を見たのは初めて。
「そんなことないです! あたしは先生が苦しんでいるのを知らないでここまで来たから……」
『蘭ちゃんは昔からそうだったわね、あなたは誰よりも優しくて強い心を持っている』
あたしが生きる希望が今、目の前に……。
すると、足元に違和感を感じた。
「え……?」
あの日記が落ちていた。
(嘘? どうして、こんなところに? ちょっとまって……⁉ 日記で読んだあの箱ってもしかして……!)
『どうしたの? 蘭ちゃん』
「な、なんでもないです」
『もう終わりよ……ここから出られる方法なんてないんだから』
「令菜先生! あきらめないで。あたしが何とかしてみせます!」
『蘭ちゃん……ありがとう』
幽霊でもいい。あたしは令菜先生に会えただけで充分だった。