あたしは九龍とランスロットに近づきゆっくりと顔を見つめる。
すると、あたしを見た瞬間……。
『あ? 蘭、お前どうしてここに?』
『随分と痛めつけられたようだな。怪我はないか?』
「え……何も覚えてないの……?」
二人は大きく頷いた。
よく見ると深紅の瞳から光がさっきまではなかったのに今は輝いている。
「あなたたちは、あたし達を苦しめていたのよ」
『マジかよ』
『本能が動いてしまったのか……』
棺をもらうと宣言したこと、実はちょっとだけ後悔している。
(護身用は壊れてしまったけれど、もしかしたら呪いからあたしを守ったり?)
なんて想像を頭の片隅におきながら、あたしは思わず笑っていた。
「……なんだか、おかしくなっちゃった。やっぱり九龍とランスロットはあたしがいないとダメね」
『クソ……お前にしたことは決して許されることではない。煮るなり焼くなり好きにしろ』
『すまない。守ると約束したのに蘭を裏切ってしまったな』
二人の深紅の瞳から涙が溢れていた。
あたしは複雑な気持ちになる。
(なによ! これじゃあ、あたしがまるで悪者扱いじゃない!)
あたしは震えながら、手を差し伸べた。
「ねえ、あたしは二人のしたことは許せないけど……。今ならやり直せるでしょ?」
『いいのか? 本能が暴走した、ただの化け物だぞ?』
『それでも蘭は、俺達を許すのか?』
あたしはぎこちない笑顔で笑ってみせる。
「当たり前でしょ! それに、二人の暴走を止めるのはあたししかいないからね」
『蘭…! わかった。もう二度と君を悲しませはしない!』
『だったら、俺の好きにさせてもらうぜ!』
二人の吸血鬼はあたしの手を強く握りしめた。
その時だった。
「あれ? 二人ともどうしたの?」
『もう我慢できなくなったようだ、俺達は』
『ははっ。やっと素直になった人間を見つけた……だから』
九龍とランスロットがあたしの方にゆっくりと近づく。
「いやいやいや、ちょっとまって⁉ これはいったいなにっ?」
『契約しないといけないんだ。棺の持ち主になるくらいなら代償は付き物だろ?』
『九龍君、動けなくしてくれて助かるよ。さあ……蘭?』
二人の口から鋭い犬歯がキラリと見える。
怖くて我慢できなくなったあたしは抵抗した。
「ちょっと……まだ何かあるの⁉」
逃げて、逃げて、逃げまくる。
耳元でまた、ドスのきいた低い声が響く。
『俺にその血を差し出せ!』
『その身を俺に委ねろ!』
鋭い視線が近づいてくる。
あたしは、いつの間にか玄関前に向かって走り出していた。
(そろそろ出たい、もうこんな場所イヤだ……)
ドアノブを手にかけようとした瞬間。
『そろそろ終わった頃かな?』
聞き覚えのない男性の声が聴こえてくる。
開けちゃいけない、そんな予感がした。
『君はもう帰れないよ。俺の令菜や彼女たちと同じようにしてやる』
するとドアが開き、足音と共に誰かが入ってくる。
あたしはドアから離れた。
でも、なぜかその姿がみえない。
「いや……来ないで」
『そこにいるのは分かっている。騙された君が悪い!』
すると九龍とランスロットが目の前に飛び出してきた。
『ふざけるな、こいつは俺の獲物だ』
『安心しろ。俺がついている』
三つの恐怖が……あたしに襲い掛かる。
白い手、長い爪、黒いマントが迫ってくる。
血の匂いがあたしの鼻にツンときた。
「きゃあああああああああああ!」
声にならない悲鳴をあげてあたしは気絶した……。